SaaS型アプリケーションベンダーの米NetSuiteが日本法人を2006年4月に設立してから4年が経過した。現在の国内ユーザーは約130社。田村元社長は2010年を「転機の年」として、SaaS利用の機運の高まりを感じている。販売チャネルの補強を継続し、中堅・中小企業のSaaS需要の取り込みを図る。
“本格”クラウドを売る
──SaaS型アプリケーションベンダーとして、国内のERP(統合基幹業務システム)市場をどうみていますか。
田村 ERP市場は全体的にみればシュリンクしていて、新規参入の余地が少なくなっています。そういうなかで当社は伸びている。つまり、オンプレミス型では新規の導入は限られていますが、SaaSは伸びているんですよ。
──主要ターゲット層である中堅・中小企業(SMB)でSaaS型ERPを選択するユーザーが増えているというわけですか。
田村 一番引き合いが多いのは大企業の海外の現地法人やグループ企業への展開です。
これまで、海外の現地法人はホワイトスペースでした。相当な企業規模であれば、本社と同じシステムを横展開することが有効です。ですが、導入するには身の丈に合わず、ROI(投資回収率)的に疑問符がつくような規模の現地法人が少なくありません。
従来、そうした現地法人にとっての選択肢は、無理をしてでもかなり大がかりなシステムを展開するか、地場ベンダーの限られたソリューションを導入するか、二つに一つでした。
リーマン・ショック以降は、本社が導入しているからといって無理やり海外で展開するということがなかなか難しくなっています。ユーザーがITを含めた投資にとてもシビアですから。
SaaSはこうした問題を解消してくれます。グローバルで使えるSaaS型ERPは、現在幸いにも当社くらいしかもっていません。今年の後半からは、海外の現地法人への展開が8割くらいを占めています。現在、ユーザーは130社以上を抱えています。今年は50社以上の新規案件が決まっていますよ。
──エス・エス・ジェイのような国産メーカーがERPのSaaS提供に踏み切っています。意識されているサービスはありますか。
田村 うーん。競合はいませんね。オンプレミス型が売れないからSaaSの提供を開始したメーカーと、最初からSaaSが広がっていくという信念をもって10年以上前から事業を推進してきた当社とでは、同じ土俵で競合しているとは思っていませんから。
SaaSの重要なポイントはマルチテナント。すべて同じバージョンで動かそうと思った時に、ユーザー固有の要件のなかで取れる選択肢は二つしかありません。ユーザーに何もさせないでマルチテナントを実現するのか、もしくはプラットフォーム上で個別の要件をアドオンしつつマルチテナントを実現するのか、です。
限定条件をつけずにマルチテナントを実現しようとするならば、根本からSaaSのためにアーキテクトする必要があります。そこまでの信念と覚悟で、SaaSを開発しているメーカーはそれほど多くないでしょう。
当社は長い間、SaaS事業を展開してきました。クラウド環境での提供を前提に設計したソリューションと、オンプレミス型から転化したソリューションとでは差が出てくるはず。これまでは比較対象がありませんでしたが、それができたことは追い風になります。だから、各社がSaaS参入を表明すること自体はとても歓迎しています。
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