オンプレミス型の代替ではない
──多くの国内企業がパッケージを導入している現状があります。明るい材料があるとはいえ、SaaS型ERPの普及が進むのはそう簡単ではないのでは?
田村 SaaSの利用を分かつのは、ERPが経営にもたらすインパクトを中小企業の経営層が理解しているかどうかの差でしょう。とりあえず伝票入力ができてコンピュータで集計・計算・出力できればそれでいいということであれば、SaaS型ERPは必要ありません。
SaaS型ERPは、経営層が意思決定したり、より正しく効率的に会社をドライブしたりするためのプラットフォームです。
──どうやってSaaS型ERPをユーザーに訴求していきますか。
田村 SaaSを選択する必然性がユーザーになければいけません。まずSaaSがもたらすメリットは、オペレーティングコスト。各国でシステムメンテナンスする必要がなくなります。インターネット環境さえあれば利用できます。本社からのガバナンス強化が可能となる点も大きい。
このほか、ビジネスインテリジェンス(BI)構築プロジェクトとなれば、普通で数千万円クラスの出費が必要ですが、「NetSuite-Release J」は標準でBIを実装していますし、必要なKPI(重要業績評価指標)もセットされています。
──現在、有力な販売パートナーとして富士通・富士通マーケティングがいますね。今後、どのようにして販売チャネルを拡大していくお考えですか。
田村 販売パートナーとしては、富士通グループとアイネットの2社がツートップです。パートナーはERPの経験値があるベンダーでなければいけません。それはメーカー系SIerとユーザー系SIerの二つに大別できます。単純に数を増やせばよいとは思っていません。ユーザーの海外展開の話は多いので、海外ビジネスを一緒にできるパートナーも検討します。
──数値目標は?
田村 3年でユーザーを3倍以上にします。ただ、これは社内でかなりコンサバティブに見た数字です。極端に大きな数字を表明しないのは、オンプレミス型の替わりにSaaSで、というユーザーには積極的に売るつもりがないからです。SaaSはサブスクリプションモデルで、長く使ってもらわないといけませんから無理に売ることは絶対にしません。
このことに関して、びっくりしたことがあります。2010年の事業計画を立案した時に、本社から下方修正を求められたのです。外資なのに、これは初めての経験でした。営業が数字を達成しようと無理なことをしても仕方がないですからね。
──CRMではセールスフォースが一歩先んじているように思いますが…。
田村 CRMしか必要ないというユーザーの場合には、コンペになります。ですが、ライフサイクル全般を管理するには、当社のSaaSが有効です。この点を強く訴求していきたいですね。
・こだわりの鞄 2年くらい前に購入したというCoachの鞄。肩からかけても形が崩れないつくりになっているのがお気に入り。見た目が美しく、書類も「ぐしゃっとならない」のだとか。外ポケットを開けやすいのもポイント。雨の日用には別の鞄を用意しているそうだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
以前、外資系アプリケーションベンダーのトップである田村元社長の出自を知った時は少々驚いた。キャリアのスタートは国内大手SIerの大塚商会だったからだ。珍しいキャリアの重ね方だと感じた。
これまでに、バーンジャパンや日本ジェイ・ディ・エドワーズ、グロービアインターナショナルといった外資系ベンダー数社を渡り歩いた。ネットスイートに移籍する前は、SAPジャパンでヴァイスプレジデントカスタマーイノベーションセンター本部長を務めていた。20年以上ERPや基幹システム構築事業に従事してきた“やり手”だ。
ネットスイートが「NetSuite-Release J」をリリースしたのは2009年。同年に富士通・FJMと業務提携した。つまり、販売チャネルの構築はまだ緒に就いたばかりということだ。SaaS型ERPも徐々に市場に受け入れられている段階。同社が成長の道筋をつけられるかどうかは田村社長の手腕にかかっている。(宮)
プロフィール
田村 元
(たむら はじめ)1968年2月6日生まれ。90年、大塚商会入社。その後バーンジャパン、日本ジェイ・ディ・エドワーズ、グロービアインターナショナルで要職を歴任。07年、SAPジャパンに移籍。ヴァイスプレジデントカスタマーイノベーションセンター本部長を経て、09年、ネットスイートの社長に就任。
会社紹介
米NetSuiteの日本法人として、ネットスイートが設立されたのは2006年4月。ERPやCRM、Eコマースなどを含む業務アプリケーション機能を提供している。2009年から提供している「NetSuite・Release J」は、日本のビジネス市場にローカライズされたクラウド型ERPとなっている。2009年8月に富士通と富士通ビジネスシステム(現・富士通マーケティング=FJM)と業務提携し、中堅・中小企業(SMB)向けの販売チャネルを強化している。