SIerトップグループで、今、最もラジカルな経営を実践しているのがITホールディングスである。2010年に富山、2011年に東京に最新鋭の大型データセンター(DC)を相次いで竣工し、中国・天津のDCは受注が好調で第二期の拡張計画を着々と進める。クラウド型サービスやグローバル化に対応するものだ。国内経済が低成長から抜け出せないでいるなか、岡本晋社長は、「市場の変化を常にリードする」と、果敢に攻めの経営を実践する。
国内外で最新鋭DCを相次ぎ竣工
──ITホールディングスの設立以来、2011年4月で丸3年。予期せぬ経済危機の荒波に揉まれ、なりふり構わず突き進んできたという印象を強く受けます。
岡本 ビジネスは、変化が起きてから対応していては遅いのです。クラウドコンピューティングやグローバル化、国内経済の低成長など、情報サービス業界は、大きなパラダイムシフトに直面している。こうした変化に一歩でも、半歩でもリードしておくには、ゆっくり考えたり、ましてや変化を待っている余裕などありません。
──2010年4月、日本の主要SIerで初めて中国・天津に自社運営の大型データセンター(DC)を全面開業させ、10年7月には富山県高岡市、11年4月には東京・御殿山に最新鋭のDCを開設する予定であるなど、矢継ぎ早に果敢な先行投資をしておられますね。
岡本 クラウドやグローバルに対応するための設備投資の一環ですが、正直、計画段階ではDCのすべてが埋まるほどの需要があると確信していたわけではなかった。ライバル他社もDCに投資していますし、急成長する中国では世界中の名門IT企業が莫大な投資をしている。ただ、やらなきゃ負けるだけで、後追いでは遅いと判断したのです。
蓋を開けてみると、天津DCは開業後、わずか半年で初年度に計画していた受注がほぼ確定するなど、先行者利益を存分に生かす展開になっています。中国地場の有力金融業が顧客についてくれたり、欧州製造業、日系企業など幅広い層に利用していただけるめどがつきました。すでに、半年前倒しで次年度以降の計画づくりに着手しています。東京や富山のDCもユーザー企業からの内定案件が順調に増えています。
──主要事業会社のTISとソラン、ユーフィットの3社を11年4月1日付で合併させる予定など、組織も大きく変えられる──。
岡本 ITホールディングスは、構成する事業会社の独自性を尊重し、相互に強みを発揮する“八ヶ岳経営”を基本としています。しかし、マーケットが伸びない状況が続くなか、八ヶ岳方式の有効性を発揮しにくいと判断しました。自らの経営手法を完全否定するわけではありません。例えば、主要事業会社のインテックはそのままで、新生TISなどとともに得意分野を伸ばしていく関係です。
──情報サービス産業協会(JISA)の集計などによると、国内情報サービス市場はV字回復とはほど遠い状況です。
岡本 市場を伸ばすには、国内で新たな需要を創り出すか、それが無理なら需要があるところに出て行くしかないですよ。正直、国内の経済成長に関して、私はあまり楽観視していません。仮に低成長時代が長く続くとしたら、多くのSIerが残存者利益を奪い合うことになります。例えば、これまで情報サービス業を支えてきた受託ソフト開発は、今後、減りこそすれ、なくなりはしない。受託開発をやりつづけて、最後まで勝ち残った少数のSIerは、残存者利益を得られることになります。
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