【上海・西安発】ITホールディングス(ITHD、岡本晋社長)グループの中国ビジネスが拡大期に差しかかろうとしている。金融や製造、流通の主要業種に対応するグループ各社のフォーメーションやデータセンター(DC)を活用したITアウトソーシング、大型案件に対応可能な開発体制の整備を急ピッチで進めている。とりわけ、グループ中核事業会社の1社であるTISは、得意とするクレジットカードをはじめとするノンバンク向けSIで攻勢をかける。
ITHDグループで商談が活発化しているのは、金融系の業務システムだ。中国の大手銀行の基幹業務システムに日本のSIerが食い込むのはハードルが高いとされる。一方、地方銀行や、ノンバンクなどの金融サービスの多様化は急ピッチで進んでいる。「このような新興の金融サービスへの参入余地は非常に大きい」(TIS上海現地法人の井上覚総経理)と、確かな手応えを感じている。金融に強い地場のSIerと組むなど、まとまった投資も視野に入れる。
TISの後を追うように、特定業種に攻略をかけるのが、同じくITHDグループのインテックだ。同社は東洋ビジネスエンジニアリングの製造業向けERP「MCFrame」の日本におけるトップセラーとしてのノウハウを生かし、長江デルタ工業地帯の製造業顧客に接近。流通業向けではEDI(電子データ交換)やSCM(サプライチェーン管理)に焦点を当てる。同社はこれまで内陸部の武漢を主要拠点としてきたが、今後は上海地区での営業を強化。上海拠点の直近の人員数は約40人だが、向こう1~2年で上流工程を担うSEや営業を中心に「倍増させる」(インテックの上海地区を担当する中智弘総経理代理)と鼻息が荒い。
さらにピンポイントで攻めるのがクオリカである。主力商品の鋳物シミュレーションソフト「JSCAST」で一点突破を狙う。建機メーカーのコマツのソフト開発子会社をルーツとする同社は、過去24年間にわたって累計700ライセンスを日本で販売。世界の製造業が集まる中国で少なくとも累計200ライセンスを向こう3年間で販売する計画を立てる。市場の成長可能性を考えれば、「将来的に日本の2倍は売れる」(クオリカ現地法人の八十田稔副総経理)とみて、中国地場の販売パートナーとの関係強化を急ぐ。
最前線で業種攻勢をかける事業会社を後方支援するのが、中国トップクラスの設備水準を誇る天津DCと、内陸部の西安・武漢のソフト開発拠点。DCを活用したアウトソーシングや大規模開発に即応する。ITHDの岡本晋社長は「早い段階で海外売上高比率を2ケタ%に」と号令をかける。業種戦略や中国地場のビジネスパートナーとの連携、合弁事業などの取り組みを加速させ、グループの中国ビジネスを拡大期へと導こうとしている。(安藤章司)
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営業・開発・サービスの三軸確立へ
年率およそ25%の勢いで急成長し、2011年には日本の情報サービス業の売り上げを追い抜くことが見込まれるのが中国の情報サービス市場である。ITホールディングス(ITHD)は、グループの総力を挙げて“巨大市場”に食い込もうとしている。従来の中国でのオフショアソフト開発や、中国に進出する日系企業のIT投資だけでは、収益や成長の余地が限りなく小さいといわざるを得ない。
ITHDがとりわけ重視するのが、グループのフォーメーションだ。IT需要は経済規模が大きい中国沿岸部に偏る傾向がある。そこで、沿岸部には営業や企画設計など上流工程を担うSEを重点的に配置。内陸部のソラン現地法人の西安開発センターと、インテックの現地法人がある武漢では、ソフト開発機能を拡充し、相互に補完関係を築く。さらに、今年4月に全面開業し、TISグループが運営する天津データセンター(DC)を活用して、ユーザー企業のITライフサイクルを完結。天津DCは「すでに上客がついている」(TIS上海現地法人の井上覚総経理)という。
天津DCを運営するTIS現地法人の丸井崇総経理は、「グループのアウトソーシング案件を一手に引き受ける」としており、ソラン西安開発センターの劉誠総経理は、「生産性の高いソフト開発体制で大型案件も余裕でこなす」と、全面的にバックアップする。こうしたグループ間の連携は日本本社の専門部門も「相乗効果を最大限に発揮するように調整する」(ITHD渡辺千尋執行役員国際部長)動きをみせている。
沿岸部を中心とした営業・上流工程SEを、内陸部の開発センターが後方支援。さらに天津DCが中国全土に向けたITサービスを提供する。この三軸体制をより強固なものとし、かつ金融や製造、流通といった個別業種で強みを発揮。中国地場のビジネスパートナーとも積極的に組んでいくことが、同社グループの中国ビジネス成功のカギとなりそうだ。(安藤章司)