「パソコンは利益が出ない」と、多くのIT企業は一様に嘆く。そんな定説を覆すのが、ハイパーだ。パソコンの販売をメイン事業に据えて約20年間、一貫して黒字経営を実現。06年にはジャスダックに上場した。今はパソコンの販売以外のビジネスも手がけるが、それでもパソコンをメインとするコンピュータ販売事業が売上高の約80%を占める。販売価格が下がっても利益を出し続ける秘訣とは何か──。パソコン事業の旨みを引き出す戦略を玉田宏一社長に聞いた。
「あえて在庫をもつ」という発想
──御社では、売上高の81.2%がコンピュータの販売事業で、その半分をパソコンが占めていると聞きました。利益を上げにくいといわれるパソコン。その依存度が高いのに、利益を出し続けることができる理由を教えてください。
玉田 在庫をもつことです。どんな商品を扱う企業でも、売れなかった場合のリスクを恐れて在庫をもちたがらないのが普通ですよね。パソコンは、IT機器のなかでも開発サイクルが短く、価格変動が激しいので、他のIT機器よりもよけいにそう思うはずです。だから、他社は在庫をもちません。ハイパーは逆の発想です。あえて在庫をもちます。常時8000台は保有しているでしょう。大量発注することによって、1台あたりの仕入れ価格を他社よりも安く抑える。だからこそ、利益が出せるのです。
──パソコンは陳腐化するのが速い。だから、大量に仕入れた製品は、すぐに売らなければなりませんね。
玉田 ハイパーは、パソコンを大量に販売する顧客基盤をもっています。ユーザー企業は、大企業から中小企業まで、およそ7000社を抱えています。
──どのようにして顧客を集めたのですか。パソコンはどのIT企業からも買うことができるし、インターネットでも購入できます。ユーザー企業にはさまざまな選択肢があるにもかかわらず、なぜハイパーが選ばれるのでしょう。
玉田 ユーザー企業がパソコンを欲しいと思った時、IT企業に求めるものは何だと思いますか? 「安く」そして「すぐに」届けてくれることです。ハイパーは、大量調達によって仕入れ価格を抑えていますから、安く販売できます。スピードの面では、常に在庫をもっているので他社よりも優位に立てます。加えて、当社の営業部門は、ユーザー企業への訪問回数よりも、問い合わせがあった時に迅速に対応することを重視しています。あまり社外での営業活動をしないから、少ないスタッフでもレスポンスが非常に速い。この点でもスピードを速めることができる。SIerはビジネスの中心がソリューションであって、パソコンは二の次、三の次の扱いだから、こんな営業手法をとることはできないでしょう。
「安い」「速い」のメリットをユーザー企業に感じていただいて、1社ずつ着実に顧客を増やしてきました。この顧客基盤があるからこそ、大量調達が可能ともいえますね。在庫の回転日数は昨年度(10年12月期)で11.6日。パソコンの廃棄率は0.0053%で、廃棄額は総計64万1000円しかありませんでした。
──強い顧客基盤を築いたからこそ強気で大量調達できる、ということですね。しかし、ユーザーがまだそれほど多くなかった初期の頃は、そんなビジネスモデルが成り立たなかったはずです。立ち上げ当初はどのようにして顧客を獲得したのですか。
玉田 企業をターゲットにした店舗を秋葉原に出店したのです。1990年代の初めの頃は、情報システムの担当者が、企業で使うパソコンを秋葉原に買いに来ることが結構あったんですね。そうした情シス担当者のニーズにマッチした店舗を複数つくりました。第1号店をオープンしたのは93年で、パソコン事業に参入して5か月後のことでした。
情シス担当者は店舗でパソコンを買う時、「領収書をください」と言いますよね。その時、店員には、名刺をもらうことと、「今後、価格情報をFAXしてもいいですか?」と聞くことを義務づけました。許可をいただいた方には、特価情報などが載ったFAXを送って、いくつか注文が入るようになりました。注文が入ったら、すぐに届ける。これを地道に続けました。ある程度の顧客数に到達したら店舗を閉鎖しようと思っていたので、ある時期から閉め始めて、今は1店舗も抱えていません。
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