クラウドサービスへのシフトを急ぐ
──今後、独自サービスや複合ソリューションの展開を強めていくにあたって、組織改革にも取り組んでおられますね。
瓦谷 そうです。まず、サービスを開発するエンタープライズ事業本部と、パートナー企業から主要商材を集めて複合的なソリューションとして提供するソリューションパートナ事業本部、それぞれの役割を明確にしました。また、2011年4月1日付でこれまで当社の常勤顧問を務めていた鈴木達を新しくエンタープライズ事業本部の本部長に就けるなど、社長交代と同時に、幹部の人事異動を実施してきました。
これからは、事業部など社内の壁を外し、全社一体になって新しい事業を創造していきたい。新社長のミッションとして、当社をベンチャースピリットに溢れる「事業開発型の企業」に変貌させることを目指しています。
──エンタープライズ事業本部の鈴木本部長が、海外事業推進室担当を兼務しておられます。御社の新組織では、「サービス」と「海外」が緊密に結びついていると見受けます。
瓦谷 われわれは、2015年度の海外売上高構成比を現在のほぼゼロから10%の水準へ引き上げることを目標としています。海外でのビジネスを拡大するために、クラウド型などのITサービスが有効な商材になると考えているのです。ベトナムやインドネシア、中国など、成長が著しいアジアの新興国では、中堅・中小企業の比率が高く、ITを簡単に導入できるというメリットをもつクラウドサービスの需要が急増しています。当社はこれから海外でのサービス提供を実現するために、アジア諸国で、現地のパートナー企業との戦略提携に向けて、交渉を推進している段階です。
また、海外を舞台にしたもう一つのビジネスとして、OEMパートナーの技術支援の事業化に期待を寄せています。当社は、ICTソリューションの実証実験ができる技術サポートセンターを東京・豊洲に設けるなど、高い技術力を強みにしています。そういった技術力を生かしながら、海外でOEMパートナーをサポートする事業展開に注力していきたい。
──瓦谷社長の就任と同時に、2010年度が締まりました。2010年度の業績はいかがでしょうか。
瓦谷 売上高は約460億円で、前年度比でおよそ55億円のプラスとなりました。また、経常利益は2割強の増加を示し、こちらも好調です。ただ、今後は、ハードウェアの市場が縮小し、ハード販売の利益率が低くなるという懸念を抱いています。その対策として、3か年計画でも定めているように、クラウドサービスにシフトすることを急がなくてはならないと感じています。
──東日本大震災の影響で、データセンターの利用が増えるなど、さまざまな“ITの特需”が生じていると聞きます。瓦谷社長は震災による特需をどう捉えておられますか。
瓦谷 企業でDR対策などの需要が確実に拡大してくるとみています。当社についていえば、ITの復興需要を含めて、今期の後半から特需が売り上げの数字に反映される可能性があるという見方です。
──2015年度の売り上げ目標を聞かせてください。
瓦谷 サービス事業の強化を踏まえて、2015年度の売上高を約800億円に拡大していくつもりです。
・お気に入りのビジネスツール 瓦谷社長のお気に入りアイテムは、アルバの金メッキの懐中時計。「18年前に、誕生日プレゼントで娘からもらって、ずっと使っている」とのこと。瓦谷社長は、腕時計など、アクセサリを直接身につけることが苦手だそうで、IT業界では珍しい、懐中時計の愛用者なのだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
日商岩井に勤務した時代から、長年にわたって事業計画や経営方針の分野に携わっており、新しい事業を創造することに熱意をもっていることを強くアピールした瓦谷社長。
氏が2012年度からの3か年計画で描いている今後の事業展開を支える柱は、前社長の大橋文雄氏が推進した方針とそれほど大きく変わるわけではない。だが、瓦谷社長の話しぶりからは、フルパワーで計画の実現に注力していく意志が明確に伝わってきた。
このインタビューの写真撮影は、日商エレクトロニクスの本社の前にある築地川公園で行った。古代インドをイメージする築地本願寺がすぐ隣にあり、独特な形の本願寺の屋根が公園の背景に見えた。
撮影の際、瓦谷社長は、近くの勝どき近辺に住んでいると語り、休日に隅田川沿いをジョギングするのが趣味だと話した。企業のトップに立つには、強い精神力だけでなく、体力も欠かせないのだ。(独)
プロフィール
瓦谷 晋一
(かわらたに しんいち) 1955年6月26日生まれ。79年、日商岩井(現:双日)に入社。97年、日商岩井米国会社(現:双日米国会社)の情報通信事業部長に就任。2001年、日商岩井を退社。ベンチャーキャピタルの代表取締役を経験した後、07年に双日に入社。産業情報グループ長兼産業情報部長、機械部門プラント・情報産業本部産業情報部長などを経て、10年10月、日商エレクトロニクスの代表取締役副社長に就任。海外事業推進室管掌/戦略プロジェクト推進室管掌を兼務する。11年4月から現職。
会社紹介
双日グループのネットワークインテグレータ(NIer)。1969年に設立。2009年、双日の完全子会社になった。サービス/ソリューションのエンタープライズ事業、ネットワーク機器を提供するサービスプロバイダ事業、仮想デスクトップソリューションなどを提供するソリューションパートナー事業を展開している。2010年3月期の売上高は、404億7573万円。東京・中央区の築地に本社を構え、社員数は1293人(2010年3月31日現在)。