中国事業は年率2倍が標準値、早期の10億円突破へ
――今後の戦略は? とくに得意分野の組み込みソフト開発事業と、中国市場向けビジネスをどう伸ばしていくつもりですか。
室町 富士通BSCは、今からおよそ20年前に中国に進出して、中国科学院関連企業との合弁会社「北京思元軟件有限公司(BCL)」を設立しています。進出時期は、同業者に比べて少しは早かったかな、と。中国の商慣習・文化にも慣れ、オフショア開発のノウハウは他社よりも蓄積できているはずです。昨年度の売上高は、5年前に比べて約70%増の約4977万7000元(約6億2000万円)、現地スタッフは約60%増の183人まで増えました。拠点は北京、大連、上海に構えています。
売上高は、伸びているといえば伸びていますが、私は「中国事業は年率2倍が標準値」と思っています。なので、まだまだダメ。とりあえず、早急に10億円までもっていきたい。カギを握るのは、中国のローカル企業の開拓です。
日系企業ではなく、現地の中国企業からいかに案件を獲得することができるか。それ次第でしょう。通常の業務システム向けソフト開発にこだわるつもりはありません。大連ではBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスを始めましたし、日本では、なかなか厳しい自動車向け組み込みソフト開発事業の可能性も探っています。
――組み込みソフト開発についてはどんな戦略をおもちですか?
室町 富士通BSCの全売上高のうち、組み込みソフト開発事業は全体の16.2%(10年度)で、通信事業者向けシステム構築(全体の42.8%)、民需・公共システム開発(29.2%)に次ぐビジネスの柱。自動車や携帯電話の基地局向けも手がけていますが、携帯電話と家電向けが、組み込みソフト開発事業全体の80%弱を占めているのが現状です。
順調なのが家電向け。これは、09年にニコンの子会社と設立した合弁会社が貢献しています。ニコン製デジタルカメラのファームウェアを開発する会社で、ニコンのプロジェクトを安定して開発できていることが支えとなっています。家電向けでは、こうした家電メーカーとの合弁会社設立によるビジネス展開を、別の家電分野で手がける可能性がないとはいえません。
一方、携帯電話。これはマーケットが伸びるか縮むか、正直いってみえていません。スマートフォンの登場で、携帯電話向け組み込みソフト開発の需要は確実に高まっています。ただ、ガラパゴス系の携帯電話に比べて参入障壁が低く、競争が非常に激しい。ブルーオーシャン(=スマートフォン)市場で戦うか、レッドオーシャン(=ガラパゴス系携帯電話)のマーケットで生きるか、考えどころだと思います。いずれにしても、何か得意技がないと生き残っていけないという危機感があります。富士通BSCは、セキュリティやアプリの開発手法に独自性をもっていますので、こうした点を訴求できればと思っています。
・こだわりの鞄 15年以上前から愛用するビジネスバック。「ボロボロで汚いからみっともないなぁ」と言いながら見せてくれた。バッグ以上に利用頻度の高いのが、少し大きめのA4サイズの手帳で、20年以上使っているとか。ともに、新品にはない味わいがある。
眼光紙背 ~取材を終えて~
室町社長は、SIをはじめとして、保守・運用、アウトソーシングにパッケージソフトの開発など、富士通時代にさまざまなビジネスに関わっていた。話を聞くと、各ビジネスが転換期に入った時に、秋草直之氏や黒川博昭氏など、その当時のトップに呼ばれて、再編計画や新たなサービスの立ち上げに深く関与していたことが分かった。富士通の構造改革を影で支えていたのだ。既存のビジネスモデルに固執することなく、数年後を見据えて、今必要な組織や伸びそうなサービスを立ち上げることに長けているのだろう。
前社長の兼子孝夫氏は、不採算案件に苦しんでいた頃の富士通BSCに、自身が培った品質管理体制をもち込み、高収益体質をつくり上げた。バトンを受けた室町社長は、富士通BSCをどう変えるのか。多方面の知識と経験が、停滞感をどう打ち破るのか。ボリュームは小さいものの、中国の開拓と、携帯電話向け組み込みソフト開発事業の指揮に注目している。(鈎)
プロフィール
室町 義昭
(むろまち よしあき)1950年12月7日生まれ。74年3月、東京理科大学理工学部卒業。同年4月、富士通入社。01年、システムサポート本部事業推進統括部長。07年6月、アウトソーシング事業本部長。08年、サービスプロダクトビジネスグループ長付。09年6月、富士通ビー・エス・シー(富士通BSC)取締役執行役員常務事業企画本部長。同年12月、富士通BSCの中国関連会社である北京思元軟件有限公司の董事長を兼務。10年、取締役執行役員専務。11年6月24日、代表取締役社長に就任。
会社紹介
1963年、日産リースとして設立(86年に現社名に変更)。00年、大阪証券取引所ジャスダック市場に上場。資本金は19億7000万円(11年3月31日時点)で、連結従業員は約2100人(同)。通信事業向けシステム構築と、家電や携帯電話向け組み込みソフト開発に強い。昨年度の業績は、前年度比4.1%減の308億7000万円。営業利益は4.1%増の23億2200万円。