グローバル、グループ経営、クラウドを軸に
――中堅企業向けのERP市場は、非常に多くの競合ベンダーが存在します。生き残りに向けた戦略をお聞かせください。
大江 成長に向けて、三つの大きなキーワードがあります。一つは「Marketing Driven Company」、二つ目が「Only One Product」、三つ目が「Global」です。
なかでも「Marketing Driven Company」が一番大事です。会社の方向性を決めていくのはお客様であり、マーケット。そして競合です。ニーズが変わり、競合も変わるなかで、お客様が欲するもの、競合がやらないものを提供できるようにします。震災や洪水など想定外の事態を経験して、日本の企業は強くなりました。新たに求められている業務管理やシステムのありようをきちんと見極めて、先手先手で取り組んでいきます。
マーケティングとはいっても、マーケティング部門主導ではありません。営業や開発を巻き込んだ全社マーケティングを進めます。私が模範をみせる必要がありますから、社長に就任後に積極的にお客様やパートナーを訪問して、600人くらいにはお会いしました。
「Only One Product」は、文字どおり唯一無二の製品を指します。そのために、クラウド・SaaSやグループ経営、それから「Global」を軸に製品の充実を図っていきます。グローバル機能を順次投入することで、海外展開する企業をバックアップします。IFRS(国際財務報告基準)対応はあたりまえですから、あえて言いません。現時点では当社にアドバンテージがあるので、徹底的に差異化を図って勝負したい。「グローバルだったら『SuperStream』」と認知してもらえるようにします。
――「Only One Product」についておっしゃったことは、競合ベンダーも同様に強化しているはず。優位性を保つのは容易ではないと思いますが……。
大江 中堅企業市場でSaaS提供しているベンダーはほとんどありません。こうした状況で、いち早く事例をつくっていくことが重要です。2015年までに、オンプレミス型とSaaSの累計で1万社の利用を目指します。グローバルという観点からも、積極的に事例を増やしていきます。
――会計と人事・給与のソリューションしかもたない御社は不利ではありませんか。
大江 お客様のニーズが変化しているなかで、会計と人事・給与だけの競争になると非常に厳しい消耗戦になります。たとえ商談を勝ち取ったとしても、儲けが少なくてそんなにハッピーになれません。
これからは、システム全体を会計の視点から提案できるコンサルティング能力の育成に力を注ぎます。例えば、原価管理や生産管理と会計を連携させることで、こういったことを実現する、と提案できるようにします。当社がすべてのERPパッケージを揃えることはしませんので、例えば生産管理であれば東洋ビジネスエンジニアリングの「MCFrame」と連携できます。
――海外での事業展開は考えておられますか。
大江 今のところは未定です。方法はいくつか考えられます。例えば、当社が直接海外に出て行くのが一つ。もう一つは、パートナーの海外拠点を生かして、お客様のグローバル化に対応していくことです。親会社のキヤノンITソリューションズがグローバル化に取り組んでいますから、ITビジネスで連携して展開していくこともあり得ます。
海外では、国内のように数か月もかけてパッケージを適用してカスタマイズするのではなく、SaaSで早期導入していくのが得策かもしれません。
・お気に入りのビジネスツール お嬢さんからプレゼントされたという手づくりのカレンダー。このコーナーで、カレンダーが登場したのは初めてだ。「動物が大好きで、2匹のジャック・ラッセル・テリアがモデルとなってプリントされている。このカレンダーを眺めていると、とても癒される」と目を細める。
眼光紙背 ~取材を終えて~
中堅企業向けのERP市場は、数多くのプレーヤーがひしめく激戦区だ。SSJの「SuperStream」は、その激戦区で多くのユーザー企業の支持を集めてきたベストセラー製品。2011年2月にはSaaS版の提供を開始し、いち早くクラウドERP市場で勢力の拡大を狙っている。会計と人事・給与しかモジュールをもたない弱点を補うための手も打っている。
競合は着々とクラウド対応を進めている。マイクロソフトはクラウド基盤「Windows Azure Platform」上で「Microsoft Dynamix AX」を稼働させる方針であるし、オラクルの「Oracle Fusion Applications」も登場する。国産勢では、東洋ビジネスエンジニアリングがグローバルERP「A.S.I.A.」をクラウドサービスとして提供する意向だ。NTTデータビズインテグラルの「Biz ∫」も注目に値する。
2012年は、これまで仕込んできた各種サービス、機能の真価が問われる一年となりそうだ(宮)
プロフィール
大江 由紀夫(おおえ ゆきお)
1954年7月16日生まれ。1977年3月、慶應義塾大学法学部政治学科を卒業。同年4月、日本ユニバック(現・日本ユニシス)入社。1994年10月、メイソンコンサルタントグループの設立に伴い、取締役に就任。2002年、アルゴ21に入社し、執行役員品質開発推進本部副本部長。キヤノンITソリューションズの執行役員総合企画本部長やエス・エス・ジェイの取締役を歴任し、2011年3月、エス・エス・ジェイの代表取締役社長に就任。
会社紹介
1986年12月、マコーマック&ドッジ・ジャパン設立。1995年6月、ディー・アンド・ビー・テクノロジー・アジアとしてSuperStream GLシリーズの会計の基本モジュールの販売を開始。1996年12月、エス・エス・ジェイに社名変更。2008年4月、当時親会社のアルゴ21とキヤノンシステムソリューションズの合併による、新会社キヤノンITソリューションズの設立に伴い、同社の100%出資会社となる。主力商材「SuperStream」の累計導入社数は6200社を超える。