IPS分野でトップのシェアを握る
──日本の話題に戻ります。今年8月、インテルの技術を活用して、“OSより深いレベル”で脅威を監視するエンドポイントセキュリティ「Deep Defender」を投入されましたね。 ブロイド 「Deep Defender」は、インテルと共同開発して日本で展開する製品の第一弾です。これを出発点として、インテルの技術の活用、それを踏まえた製品ポートフォリオの拡充に取り組んでいきます。
日本は、マカフィーにとって非常に重要な市場です。売り上げの規模は、アメリカに次いで2番目に大きいマーケットになります。日本のセキュリティ市場は、大手外資系に加え、トレンドマイクロのような強力なベンダーもひしめいていて、ビジネスを拡大するのは他国と比べて難しいとよくいわれます。しかし、私は必ずしもそうみてはいません。もちろん、プレーヤーの数が多いし、トレンドマイクロさんは間違いなく強力なコンペティターですが、だいたいどこの国にも似たような市場構造があります。私はアメリカやヨーロッパなどのいろいろな国でビジネスをしてきました。日本市場は、それほど特殊ではないと思います。
──ブロイド社長は、マカフィーを日本市場でどのように位置づけておられますか。 ブロイド 製品によって、メーカーシェアが異なりますが、社内ネットワークへの不正アクセスを検知・遮断するIPS(侵入防止システム)の分野では、当社がトップシェアを誇っています。とくに、ハイエンド向けのIPS製品の販売が好調なこともあって、IPS事業は成長エンジンの一つとなっています。また、IPS以外の製品に関しても、当社はトップではないにしても、ガートナーから「リーダー」と認められています。マカフィーは、豊富な製品をラインアップしており、それらをすべて相互接続することによって、企業を包括的に守る。これを武器として、他メーカーとの差異化を図っています。
──2013年の事業計画の柱についてお聞かせください。 ブロイド 2013年は、中堅・中小企業(SMB)の市場を開拓することを方針に掲げています。市場開拓に向けて、大きくは二つのことに取り組みます。まず、製品戦略。来年は、SMBに販売しやすい低価格のクラウド型セキュリティサービスの展開に力を注ぎます。そして、二つ目は、販売体制の強化です。パートナー戦略を一新して、パートナーの数を絞り、これまでよりも手厚くサポートします。2013年は、パートナーが、SMB向けビジネスに投資すればするほど、パートナーにとっての利幅が大きくなるという新しい支援プログラムを開始することを予定しています。このプログラムは、米国などではすでに展開していますが、来年は日本でもスタートします。対象者を1次代理店のおよそ10社に絞り、彼らを手厚く支援することによって、SMB事業を活性化させたい。
ビジネスの世界で文化を意識
──ブロイド社長はフランスのご出身で、マカフィーに入社する前に、30年以上にわたって世界各国でビジネスの経験を積んでこられました。さまざまな商習慣に精通する国際経営者です。これまでの経験を、日々の経営活動にどのように生かしておられますか。 ブロイド マカフィーに入って日本に来たのは、およそ1年半前のことです。以前も日本で暮らした時期があったので、日本での生活は合計で4~5年になります。私は、日本の特性──しっかりした教育とか、品質へのこだわりとか──を理解しています。それと同時に、海外経験がない日本人の経営者とは異なる観点から、日本企業の弱点をみることができます。
例えば、喫緊の課題であるグローバル化です。富士通やNECなど、大手メーカーの経営計画をみると、みんな自社のグローバル化を方針に掲げています。しかし、実際はどうなのか。グローバル化を実現するために、具体的にどうすればいいかがわからない企業が多く、実際にはほとんど進んでいないようです。
そうしたなかで、企業のグローバル化のカギを握るのは、あらゆる背景やスキルをもつ人材を集めることです。キーワードは、「社員の多様化」だと考えています。先日、楽天の三木谷浩史社長の講演を聞きました。三木谷社長は、留学生をはじめ、海外経験をもっていたり、海外の情勢に精通する人材を積極的に採用しておられます。彼のやり方は、とても興味深いものです。
企業のグローバル化は、長いプロセスを要しますが、必要不可欠だと思います。国内市場はもう成長しません。海外で勝つために、日本企業は早期にグローバル化を実現しなければならないのです。
──マカフィーはグローバル企業ですが、日本では人材の採用に関してどのようなポリシーで展開していますか。 ブロイド 私のこだわりですが、マカフィーは外資系でありながら、スタッフは全員、日本人か日本語でお客様のニーズに対応することができる者で構成しています。
当社は、日本法人として日本国内でビジネスを展開しています。ですから、日本のお客様のニーズをきめ細かく把握し、それに対応する必要があります。一方、私は社長として海外から来ました。米国などの商慣習に詳しく、アメリカ本社に対して、日本市場になるべく多くの金額を投資するように説得することができます。このように、文化を意識することは、ビジネスの世界ではとても重要なことだと考えています。
・FAVORITE TOOL 富士通のビジネス用ウルトラブック。色は、マカフィーのコーポレートカラーである赤。当然ながら、中にはマカフィーのセキュリティソフトが入っている。ブロイド社長は、「すぐれた性能や洗練されたデザインが気に入っていて、日本製のパソコンにこだわっている」とか。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ブロイド社長は、昨年、マカフィーのトップに就任してから、ほとんどメディアに登場していない。今年7月、初めての記者会見を開き、新製品の「Deep Defender」を紹介した。インテルとの共同開発の進捗度合いや日本のセキュリティ市場のポテンシャルなどについて語った。
日本市場の潜在需要のボリュームに寄せるブロイド社長の期待は大きい。「日本企業が情報セキュリティに投資する金額は、米国と比べてわずか5分に1のレベルにとどまっている」という。ユーザー企業に、マカフィーの「組み込み型セキュリティ」を提案し、セキュリティへの投資を促している。
ブロイド社長は、礼儀を大切にする。今回のインタビューでは、広報担当ではなく、ブロイド社長自身が受付に現れ、記者とカメラマンを迎えた。氏は、日本の商慣習に精通し、米国本社に対しても強い発言力をもっている。マカフィーが成長するうえで、有利な条件となりそうだ。(独)
プロフィール
ジャン・クロード・ブロイド
ジャン・クロード・ブロイド(Jean-Claude Broido)
米国や欧州、日本などの地域で、技術分野の営業やマーケティングで活躍してきた。インテル、ケイデンス・デザイン・システムズ、ディジタル・イクイップメント・コーポレーションの3社で営業・マーケティング担当上級管理職を経て、ソフトウェアベンダーのドキュメンタムでエグゼクティブバイスプレジデント兼EMEA(欧州・中東・アフリカ)担当ゼネラルマネージャーを務めた。2011年10月1日、現職に就任。
会社紹介
セキュリティメーカーである米McAfeeの日本法人。セキュリティのソフトウェア/ハードウェア製品の販売と保守サービスを手がける。従業員数は365人(2012年1月現在)。東京・渋谷の本社オフィスに加え、大阪、名古屋、福岡に拠点をもつ。McAfeeの2011年度のグローバル売上高は、およそ22億米ドル。