NASを武器に中小企業を攻める
──非通電関連製品が売れているということで、ほかに新しく販売するようになった製品はありますか。 細野 今年早々に三菱化学メディアさんの光ディスクなどを販売する契約を結びました。これによって、非通電関連で新しい製品を販売できるようになったことに加えて、三菱化学メディアさんが構築していたホームセンターなど新しい販路が開けたことも、大きなメリットになっています。また、これも三菱化学メディアさんから仕入れているのですが、LED電球の引き合いが高まっています。
──ネットワーク関連ビジネスについては、状況はいかがですか。 細野 主力ビジネスとして継続して拡大を図っています。とくに、NAS(ネットワーク・アタッチド・ストレージ)がデータを情報共有できるということから、法人のニーズが高まっています。このようなニーズは、最近になって中小企業や大企業の部門などから出てきています。これまでは、パソコンのなかにデータを入れておいたけれども、社内に5台以上のパソコンがあれば、情報共有とバックアップの意味も含めてNASを導入したいとの声が上がっています。データの保存はパソコンで事足りていたのでしょうが、今は1データあたりの容量が増えて、パソコンだけでは保存できなくなっている。しかも、当社のNASは10万円台の価格からとリーズナブルという評価を得ています。少人数のユーザー企業では、サーバーを構築せずにNASを導入するケースも出てきています。
──法人向けNASビジネスを拡大していくには関連製品を提供しているベンダーなどとのアライアンスが必要になってくるのでは? 細野 バックアップのニーズが出ていますので、基本的にはバックアップソフトメーカーとのパートナーシップを深めています。NASを導入するハードルが下がっているということからすれば、今がチャンスだと捉えています。また、これまでは低価格という理由で、Linux版NASが売れていたのですが、サーバーとの互換性という点で、最近ではWindows版NASがよく売れています。Windows版は、14万~15万円とLinux版よりも高いのですが、ユーザー企業は価格よりも使い勝手を重視して導入しているとみています。
──ただ、中小企業向けNAS市場は競争が激しいのではありませんか。 細野 確かに、大企業をユーザー対象としていたメーカーが参入してきてはいますが、対象としている企業規模が少し違うと感じています。しかも、当社ではリモートアクセスによる動作状況判断やレポート作成などのサービスを提供するようになり、使う側が安心して導入できる環境を整えています。それに加えて、外資系メーカーにはない国産メーカーならではのきめ細かいサポートも提供している。だから、たとえ当社が対象としている企業規模に参入してきたとしてもけっして負けない自信はあります。もちろん、当社と同じ領域を対象にしているメーカーもありますが、現段階では市場の膨らみのほうが勝っていますので、ビジネス的には今後も伸びていくとみています。
家電メーカーとは異なるコンテンツ視聴を提案
──コンシューマ向け市場については、どう捉えておられますか。 細野 コンシューマ向け市場でも、NASの販売に力を入れています。データの情報共有というニーズはこれからですが、今はテレビのレコーダーとしてNASが売れていますね。家電メーカーのレコーダーと当社のNASの異なる点は、ネットワークでテレビとNASをつなぎ、家のなかだけでなく、外出先からでもNASに保存してあるテレビ番組などのコンテンツにアクセスできることです。
──どこでも、コンテンツが楽しめるというわけですね。 細野 その通りです。この2~3年、テレビは厳しいといわれていますが、周辺機器は成長する可能性を秘めています。貯めてあるコンテンツだけでなく、NASを通じてリアルタイムにテレビ番組などを楽しむニーズも高まっています。テレビとNASがつながり、外出先からあたりまえのようにコンテンツを引き出す時代がやってきます。このような時代に対応していくことが、コンシューマ向け市場でビジネスを拡大するカギです。
──今年度は、利益が大幅に伸びるという通期見通しのようですね。 細野 法人向け市場でWindows XPからのリプレース、コンシューマ向け市場で消費税の増税前の駆け込み需要など、ビジネスを拡大する要因があるので伸びると見込んでいます。ただ、ピークは2~3月までで、4月以降、正直なところどうなるかはわからないところがあります。そのため、今後も他社が売っていない製品とか、他社が取り組んでいないことを見つけ出して、4月以降にやってくるかもしれない落ち込みをカバーするつもりです。今は、何を出すかは申し上げられませんが、期待していてください。

‘使う側が安心して導入できる環境を整えています。外資系メーカーにはない国産メーカーならではのきめ細かいサポートも提供している。けっして負けない自信があります。’<“KEY PERSON”の愛用品>業務で有効活用、休日に息抜き 細野社長の愛用品はタブレット端末だ。同社は、社内向けに業務関連のさまざまなアプリを開発し、社員がいつでもどこでも仕事できる環境を構築。業務でアプリを活用し、休日に息抜きで映画鑑賞などを楽しむそうだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
今年2月、希望退職制度に応募してアイ・オー・データ機器を辞めた社員がいる。人員削減については、「影響がなかったとはいえませんが、過ぎてしまえば、あまり大したことはなかった」。残った社員も苦労したが、「このご時世だけに、辞めた社員は大変なんじゃないかな」と、少し寂し気な表情。苦渋の決断で退職者を募ったのだろう。
今後は、低価格だけを売りにするコモディティ化したアイテムの販売には力を入れない。「安さを武器にシェアを追求しても意味がない」という。製品に価値を加えていくということだ。その一つとして取り組んでいるのが、同社の営業担当者が7インチのタブレット端末を使って、いつでもどこでも社内のデータにアクセスできる環境を築いていることだ。社員専用の業務関連のアプリを独自に開発して有効活用している。自社の活用事例をもとに法人向け市場で新規顧客の開拓を図る。IPカメラを使った遠隔監視のソリューション化にも取り組んでいる。同社の底力を発揮するときが到来したようだ。(郁)
プロフィール
細野 昭雄
細野 昭雄(ほその あきお)
1944年、石川県生まれ。62年、石川県立工業高校電気科を卒業。ウノケ電子工業(現・PFU)、金沢工業大学情報センターなどを経て、76年にアイ・オー・データ機器を設立、代表取締役社長に就任。ワンチップマイコンを利用した織機管理システムなどを手がけた後、80年にパソコン周辺機器分野に本格参入。現在に至る。
会社紹介
ネットワークやストレージをコンシューマと法人の両方に提供。また、スマートフォンアクセサリや光ディスクなども販売している。パソコンやAV(音響・映像)、サーバーなど領域を広げており、今は総合周辺機器メーカーとしてビジネスを展開している。今年度は、売上高385億円(前年度比5.0%増)、営業利益9億円(44.0%増)と大幅な増加を見込んでいる。