専門力を重視、研修でプロを育てる
──そんな河村さんですが、ここ半年、どのような動きをして、御社の改革に取り組んでこられましたか。 河村 6月に社長に就任したのですが、10月にスタートした2013年度(14年3月期)の下期に入ったのをきっかけとして、営業を強化するための仕組みを導入しました。また、ベトナムやインドネシアへ頻繁に出張して、現地のお客様やパートナーと商談を詰めるなど、アジアでのビジネス展開のテコ入れに着手しました。
──営業強化の仕組みというのは、具体的には何を指すのでしょうか。 河村 技術者であり、外資系で働いたことがある私が重視するのは、やはり専門知識です。そのために、新卒から中堅までの社員を対象にする研修プログラムを導入しました。アカウント営業やマーケティング戦略など、18項目を用意し、社内の実力マネージャーなどがレクチャーするかたちで、10月に研修を開始しました。始まったばかりですから、業績面での効果はまだ現れていませんが、社員が熱心に勉強しているとの報告を受けていて、導入してよかったと思います。
──今、IT市場を取り巻く環境が激変している状況にあって、多くのIT企業は再編に取り組んでいます。しかし、経営者が策定した方針がいくらすぐれたものであっても、社員がそれを納得して受け入れ、現場で実行しなければ意味がないように思います。河村さんは、社員とどのようにコミュニケーションを取って、方針を伝えておられるのでしょうか。 河村 ご指摘の通り、社員は会社の方針が十分に伝わらなければ、不安になったり、上層部に対して不満を覚えたりするようになります。この半年の間、当社ではいろいろな変化があったので、社員から「社長と話がしたい」という声が多くなっていました。私は、キックオフでスピーチをしたり、メールで社員に情報発信をしてきましたが、社員からそういう要望を受けて、まだまだ情報の共有が不十分だったと感じました。
そこで打ち出したのは、社員をグループに分けて、夜、一緒に飲みながら直接話すことができる場を設ける、つまり、“コンパ”の開催ということです。当社は連結で1000人以上の社員がいるので、すぐには全員に対してコンパを行うのは難しいですが、ちょくちょく開催して、情報共有を徹底します。こうして現場とのコミュニケーションを密にして、2014年には事業方針を実行に移したいと考えています。
ファーウェイの国内トップ販社を目指す
──先ほど、アジアでの事業展開を強化するとおっしゃいましたが、そのことについて……。 河村 当社の事業領域を大きく分けると、ネットワークと、サーバーやストレージを中核とするコンピューティング(情報処理)があります。アジアでは、11年にベトナムで、12年にはインドネシアで現地法人を立ち上げて、地場の通信キャリアに向けてネットワークサービスを展開しています。今後は、ネットワークに加え、コンピューティングの領域でも事業展開を開始したい。現地のカラーを出した商材をつくり、親会社である双日の海外リソースを活用して、アジア市場を攻めていきます。
──国内では、2013年、中国の大手ICTメーカーであるファーウェイ・テクノロジーズ(ファーウェイ、華為技術)と提携したことが注目を集めました。提携の発表は半年ほど前でしたが、その共同ビジネスの直近の進捗具合を聞かせてください。 河村 先日、ファーウェイが本社を置く深センを訪れ、エンタープライズ事業を担当するトップに会ってきました。私のほうから、ファーウェイの国内販売に関して全面的に取り組むとコミットメントしました。一方で、先方のエンタープライズ事業担当のトップから「日本独自の商材についてアイデアを出してくれ」との依頼を受けました。当社の営業部門がお客様からの課題やニーズを吸収し、ファーウェイの開発部隊と連携することによって、それらを商材化する流れをつくりたい。現在、当社以外にも2社、日本でファーウェイの販売を手がける会社があります。当社は、ファーウェイとの共同開発で競合との違いを明確にし、国内のトップセラーを目指していきます。
──ずっと米国メーカーの製品を販売してきた御社が、中国メーカーの製品に注力するという意味では、大きなパラダイムシフトですね。ファーウェイのほかにも、米国でないメーカーの製品の取り扱いを視野に入れていますか。 河村 いいものがあれば、販売を検討します。しかし、現時点では、ファーウェイを除いて、まだまだアメリカのメーカーが圧倒的に強いとみています。
──この13年を振り返って、ビジネスの状況はいかがですか。 河村 業績は増収増益です。当社が強みとする通信キャリアから、国内外で提供するサービスのインフラのコアを構築する大型案件を受注し、キャリア向け展開が順調だったことが業績を後押ししています。現在、中長期の事業戦略の詳細を定めているところです。当社が運用を手がけるマネージドサービスの展開や、ソフトウェアによってネットワークを構築するSDNの開発に力を注いで、長いスパンでみても、ビジネスを継続的に伸ばしていきたい。
私の経営哲学は、「正しいことを実行する」です。2013年は正しいと確信している方針を定めて、新年からは、実ビジネスに結びつけたいと考えています。

‘夜、社員と飲み会をやります。彼らの不安に耳を傾け、情報共有の徹底につなげたいからです。’<“KEY PERSON”の愛用品>ソニーのタブレット 私物端末を業務に活用する「BYOD」を導入している日商エレクトロニクスで、河村八弘社長はソニーのタブレットを愛用している。「いつでも、どこでも仕事ができる環境を整えて、業務の効率化を図っている」という。
眼光紙背 ~取材を終えて~
写真撮影の際に、カメラマンが河村八弘社長の姿勢のよさに驚いた。
「『背筋を伸ばして』とお願いする必要がまったくありませんね」
「そうだね。私は常に背筋を伸ばすようにしている。子どもの頃、おじいさんに厳しくそう命じられたから」
河村社長はこの半年、組織にテコ入れをし、会社としてもきちんと背筋を伸ばして競合他社と戦うための体制をつくってきた。今後、トップとして事業方針の実行をいかにリードして数字の拡大につなげるか。河村社長の手腕が試される。
日商エレクトロニクスの強みはイノベーションだ。中国メーカーの製品がまだ提案しにくい情勢にあっても、ファーウェイと提携し、同社の製品を積極的に販売する取り組みも、そのことを表わす事例の一つだ。両社の共同開発によって、どんな商材が生まれるかに注目したい。
ファーウェイ製品は、アジアでも有望な商材になるだろう。提携の幅をアジアに広げるかどうかを検討する必要がある。(独)
プロフィール
河村 八弘
河村 八弘(かわむら やひろ)
1959年11月13日生まれ。福岡県出身。83年、東海大学を卒業後、日商エレクトロニクスに入社。EMCジャパン、イノパスソフトウェアへの転職を経て、2010年に日商エレクトロニクスに復帰。ソリューションパートナー事業本部 技術統括部長を務める。13年4月に執行役員 エンジニアリング本部長に就任し、同年6月には代表取締役社長 CEOに就いた。
会社紹介
双日グループのICT(情報通信技術)インテグレータ。設立は1969年。ジュニパーネットワークスのスイッチとルータなどネットワーク機器をはじめ、サーバー/ストレージやセキュリティといった分野でソリューションを提供する。2013年3月期の連結売上高は363億3600万円、連結従業員数は1045人。データセンター(DC)サービスの販売を手がけるエヌシーアイなどを子会社にもつ。本社は東京・千代田区。