中国のICT(情報通信技術)大手であるファーウェイ・テクノロジーズ(華為技術)が、日本の法人向けサーバー/ストレージ市場に入り込もうとしている。今年6月、日本法人のファーウェイ・ジャパン(エン・リダ社長)は、ICT構築を手がける日商エレクトロニクス(日商エレ、河村八弘社長)との提携を発表。共同でソリューションを開発し、ウェブサービスやデータセンター(DC)の事業者などを攻める。両社の提携は、日本のインテグレータが中国メーカーのサーバー/ストレージを本格販売する初の事例となる。日商エレは、ヒューレット・パッカードなど米国メーカーも取り扱っているが、カスタマイズしやすいファーウェイ製品を有望な商材と捉え、日本市場に浸透させていく。(ゼンフ ミシャ)
広東省の深センに本社を置き、2012年12月期に3兆円超の売上高を記録したファーウェイ・テクノロジーズは、昨年、サーバー/ストレージを中心とする法人向け事業のグローバル展開に乗り出した。ネットワークの仮想化が進んだことによって、同社の主力製品である通信事業者向けスイッチ/ルータの需要が減りつつある情勢にあることから、法人向け事業を新しい柱に育てることで、中長期的な成長路線の維持を狙う。
ファーウェイ・ジャパンは、2012年の秋口に日商エレにアプローチし、今年6月に戦略提携の発表にこぎ着けた。今後、共に法人向け事業を立ち上げて、ファーウェイブランドの認知度向上に動く。日商エレはジュニパーネットワークス製品の有力販社である。ジュニパーネットワークスの細井洋一・前社長が12年にファーウェイ・ジャパンに移籍し、日商エレのシステム構築力を評価したことが提携先の選定につながった模様だ。

日商エレクトロニクス
市来裕教 担当部長 ファーウェイ・テクノロジーズは、通信事業者向け事業が売り上げの大半を占めており、中国で先行して開始した法人向け事業の12年度の売上比率は5%とまだ低い。同社は、サーバー/ストレージの展開に必要な技術を手に入れるために、数年前から取り組みを進めてきた。07年、ストレージとセキュリティの共同開発を目指し、米シマンテックとの合弁会社「ファーウェイ・シマンテック」を設立。11年に合弁会社の持ち株分を5億3000万米ドルで取得し、ファーウェイ・シマンテックを吸収した。また、12年には4000億円強を研究開発に投資し、サーバー技術を磨いてきた。
コンシューマ向けIT製品や個人・法人向けパソコンといった分野では、中国メーカーの日本進出が進んでいる。一方、高度な技術力が求められ、これまで米国と国産のメーカーが占有してきたサーバー/ストレージ領域で中国メーカーと日本の販社が組むのは、ファーウェイ・ジャパンと日商エレの提携が初の事例となる。言い換えれば、日本の法人向けIT販社が中国メーカーの技術力を初めて認めたということになる。
日商エレでファーウェイ・ジャパンとの提携を担当するマーケティング本部付の市来裕教担当部長は、「ファーウェイ製品の可能性にかけて成約した」という。プロダクトの製造は中国で行って価格を抑えながら、日本国内に研究開発センターを設置し、サーバー/ストレージを案件ごとにカスタマイズすることができる。市来担当部長は、「開発のスピード感がまるでベンチャー企業のようだ。スピードと低価格を組み合わせて、ファーウェイ製品の優位性を市場に訴えたい」と意気込む。
課題は、既存メーカーの存在感が強い法人向けのサーバー/ストレージ市場で、いかにファーウェイの認知度を高めて受注につなげるかである。日商エレは、日本ヒューレット・パッカードのサーバーやネットアップのストレージも担いでいるので、バッティングを避けることも必要となる。こうした環境のなかで、「まずは、ブランドをあまり気にせず、価格と性能を重視するウェブサービス事業者やDC運営者、大学・研究機関に絞って提案を進める。ビジネスが軌道に乗れば、一般企業もターゲットに据えていく」(市来担当部長)と拡販戦略について語る。
表層深層
ファーウェイ・ジャパンの法人向け事業の立ち上げにあたって、日商エレは有力な販売パートナーとなっている。両社の提携は、これまで米国と国産のメーカーのICT製品を中心に構築してきた日本のシステムインテグレーション(SI)/ネットワークインテグレーション(NI)業界にとって、パラダイムシフトをもたらす。これからは、中国メーカーの製品も無視できない有望な商材になり、強力な競合製品が出現することになる。
ファーウェイ・テクノロジーズだけでなく、中国のパソコン大手であるレノボも、法人向けのサーバー/ストレージ市場を開拓する準備を進めている。レノボは2012年8月に、米EMCコーポレーションとパートナーシップを締結することを明らかにした。EMCコーポレーションの技術を活用して、サーバー/ストレージの共同開発に取り組んでいるところだ。中国の技術力の向上は以前から話題になっていたが、ここにきて中国メーカーは本格的に日本市場を攻めるようになってきている。
中国メーカーの製品を担ぐことは、日本の販社には勇気が必要となる。ユーザー企業は中国のブランドを受け入れてくれるのか。しかし、ポテンシャルの大きさは無視できない。中国メーカーとパイプを築き、商材のポートフォリオを広げることも選択肢の一つに入ってきたようだ。(ゼンフ ミシャ)