日立の営業力で提案活動を活性化
──組織は、基本的には従来と変わらないとのことですが、トップを務める森田社長ご自身をはじめとして、日立システムズから、新会社にメンバーを送り込んでいますね。 森田 先ほど申し上げたように、品質を第一に掲げてきたテプコシステムズの運用ノウハウはトップレベル。しかし、日頃、それに気づかない社員が多くいるとみています。当社はこれまで、東電向けの案件をメインに手がけてきました。「東電のために仕事をしている」という意識が強く、自分の技術力を積極的に売り込もうとしないのです。そこで営業に長けた日立システムズのメンバーが入り、当社の社員に自分の誇るべきところに「気づかせる」とともに、提案活動を活性化させようとしているところです。
直近では、日立システムズが手慣れている業務管理システムの構築に取り組んでいて、人事や総務などバックヤード業務を自動化することによって、効率よく仕事ができる環境づくりを進めています。
ちなみに、品質を重視して仕事に励むという点に関しては、テプコシステムズのメンバーと日立システムズのメンバーは、DNAが同じだと実感しています。今後の事業展開についても、両社で方向がまったく一致しているので、一体になって案件の獲得に向けて動いていきます。
──東電をはじめ、各電力会社の経営状況をみると、決して大きなIT投資ができるようにはみえません。御社は、電力会社にどんな提案をしていかれるのですか。 森田 東電は現在、根本的なビジネス改革を急いでいる段階にあって、システムのつくり直しに投資しなければならないだろうとみています。といっても、新しいシステムをゼロから開発する余裕はないと思えるので、最小限のコストで既存のシステムを新しい環境に移行するやり方が、現実的なアプローチになるでしょう。そして、移行をいかにスムーズに実現するかに関してキーファクターになるのは、運用・監視の部分です。これは、まさに私どもの腕の見せどころだと自負しています。
さらに、東電にとって必須になるのは、システムのセキュリティの強化です。東電は今、スマートメーターの導入を推進していて、膨大な量のデータを取り扱っています。だから、データをいかに攻撃から守るかが課題になりつつあります。2016年の電力自由化を控えて、東電はこれから4~5年の間、ITの活用に真っ正面から向き合うことになります。
当社は、「システムは、日立システムズパワーサービスにお任せください」とアピールして、東電向け展開をエンジンにして、売上高を5年後には300億円に引き上げたい。
「how」の腕を磨き、ワンストップ提供
──御社の売上構成は、おそらく東電向けが80%、東電以外の事業が20%という割合になろうかと思います。電力の自由化をきっかけとして、新規に市場参入するプレーヤーが増えるでしょう。今後、どのような売上構成を目指していかれるのでしょうか。 森田 意外と思われるかもしれませんが、東電向けの比率をもっと高めたいと考えています。
当社は、東電以外の電力会社や新規プレーヤーに向けた展開、海外ビジネスにはもちろん力を入れますが、最も大きな商機があると判断しているのは、再編が活発な東電なのです。日立システムズパワーサービスとして、運用・監視サービスを提供していきますが、それ以外にも、ネットワーク構築を含めて、日立グループとして東電を支援できる製品・サービスがたくさんあると捉えています。
実は、日立グループでは、東電のIT全体を日立で提供したいという計画を練っており、取り組みを進めています。この4月に、日立グループの営業担当3人に来てもらい、東電に最も近い当社を窓口として、提案を行います。さらに、今後は日立製作所と東電の人材交流も行って、日立として東電に深く入り込みたいと考えています。
──ITベンダー各社はこのところ、電力の自由化を商機とみて、電力会社向けの事業展開に力を注いでいます。御社は競合ベンダーとどういうふうに差異化を図り、自社の強みを明確にしようとしておられますか。 森田 日立の強みは、システムをワンストップで提供することができることにあると思います。
ここ数年の間は、システムを分割して、複数のベンダーに発注することが主流になりましたが、東電のように、会社を根本から考え直して新しいビジネスを創出しようとする場合は、ワンストップでのシステム提供が一番効率がいいと確信しています。IT全体を日立が支えるかたちで、新生東電づくりをサポートしていきたい。
──森田社長は、新会社でどんな挑戦をしていこうと考えておられますか。 森田 当社は、技術や人材、製品などの「what」はもっています。チャレンジになるのは、これらをどう生かして、事業拡大に結びつけるかの「how」という部分です。M&A(企業の合併と買収)を含めて、「how」に注力したいと思います。
カギを握るのは、部長や課長の中間管理職であることは間違いない。彼らに、積極的に行動してもらう「動機」を与えて、日立システムズパワーサービスの存在感を強めていきます。

‘「ITは日立にお任せください」。そんなふうにアピールして、システム面で新生東電づくりをサポートします。今後、人材交流にも取り組んで、東電に深く入り込みたい。’<“KEY PERSON”の愛用品>熊野本宮大社の御守 山歩きが趣味の森田隆士社長は、和歌山県田辺市の熊野本宮大社を訪れたときに手に入れた御守を常に持ち歩いている。「御守に記された『再生』を胸に刻んで、新しい会社の事業拡大に励みたい」という。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ITベンダーが電力会社向けのサービス提供に注力する取り組みのなかでも、合弁会社を立ち上げて東京電力に入り込もうとする日立の動きは注目に値する。東電向けビジネスは、日立のグループ会社にとどまらず、日立グループと取引しているSIパートナーにとっても、大きな商機をもたらすだろう。ICT活用によって、新しい事業を創出し、東電の業績回復につなげるという提案が求められる。
NECのエネルギー事業部門の幹部に「日立が東電に入り込むようですね」と話したら、「うちもやるよ」と答えが即座に返ってきた。NECは、小型の蓄電池を使い、設備を新設することなく、燃料利用の効率化を図る実証実験を行っており、近々、事業化のフェーズに入るという。
東日本大震災の発生をきっかけに、大きく変わろうとしている日本の電力事情。ITのモノとサービスをうまく提案し、電力使用をスマートに管理する社会を築くうえで、日立システムズパワーサービスの活躍に大いに期待したい。(独)
プロフィール
森田 隆士
森田 隆士(もりた たかし)
1950年6月21日生まれ。1973年、日立製作所に入社。情報・通信グループ事業主管などの要職を務めた後、2008年に日立情報システムズ(現日立システムズ)に入社。取締役専務執行役員などを務める。14年3月、日立システムズパワーサービスの設立とともに、同社の代表取締役 取締役社長に就任した。
会社紹介
東京電力をはじめとする電力会社向けに、情報システムの運用・監視などのICT(情報通信技術)サービスを提供する。2014年3月、東京電力グループのテプコシステムズを分割し、日立グループと東京電力の合弁会社として設立した。株主構成は、日立システムズが51%、東京電力が33.4%、日立製作所が15.6%。従業員数は723人(14年3月現在)。直近の売上高はおよそ150億円。東京・江東区に本社を構える。