成長はクラウドにかかっている
──PCAクラウドは、年間1.4倍以上という成長ペースを維持できそうですか。 水谷 もちろん。まだまだ序の口という感覚です。サービス開始当初から、既存のお客様だけでも8万社はクラウドに移行すると踏んでいましたから、これを現実のものにするだけで、当社の売り上げは200億円を軽々と超えるでしょう。そうなれば、業界トップのライバル企業(SMB向け業務ソフト市場最大手のオービックビジネスコンサルタント(OBC)の14年3月期売上高は202億6000万円)を上回ります。さらに、現在、PCAクラウドは4割以上の案件が他社ソフトからの乗り換えですから、実際はもっと伸びしろが大きいわけです。
──新規獲得率もかなり高いですね。 水谷 競合他社はまだ、PCAクラウドと競合できるようなサービスをリリースしていません。パートナーが独自にインフラを用意してその上で提供するかたちではPCAクラウドの対抗にはなりませんし、ソフトベンダーが提供するSaaSも、PCAクラウドのようにオンプレミス製品との互換性が担保されていて、カスタマイズも自由にできるものはないのが現状です。中堅・中小企業向けのクラウド業務ソフトというフィールドでは、絶対的な強みがあるし、パートナーにもお客様にもそれが浸透してきているという手応えがあります。
──まさに、成長はクラウドにかかっていると。 水谷 従来のパッケージソフト販売は、毎年毎年売らなければ売り上げにはつながりません。しかし、クラウドは基本的に月額で利用料金をいただくビジネスモデルです。そして、解約がほとんどない。ということは、前期比100%以上の売り上げになることはほぼ確実で、新規に契約を取ったものが雪だるま式に増えていくことになります。だから景気が悪くても1.4倍という成長が可能になる。クラウドをしっかりやることは、安定した成長を実現するための最優先課題です。
──水谷社長は「モバイル」も重要テーマに挙げておられます。 水谷 スマートデバイスの広がりとともに便利なコンシューマアプリもたくさん出てきて、お客様のなかで「業務アプリでなぜこんなこともできないの」という疑問が出てきています。そして、モバイルはクラウドの価値を高めます。当社はPCAクラウドをモバイル活用するための「スマートデバイスオプション」を無償で提供しています。これまでとは次元の違うレベルで業務効率が改善できると自負しています。
ただ、これはクラウドの販促のためには大きな武器になるのですが、無償提供していることでパートナーの利益を犠牲にしている可能性はあります。モバイルアプリの配付方法が現状ではかなり限られているという状況もありますし。モバイルがパートナーの利益になるような仕組みを考えていかなければならないと思っています。
次の目標は売上高200億円
──今年春には、PCAが主導する会計・ERPソフトのグローバル・アライアンス・グループ「ALAE」も動き始めますね。世界のローカル会計ソフトやERP同士を連携させ、グローバルな業績管理一元化を低コストで実現するというニーズは大きいでしょうが、11の国・地域をすでにカバーする目処が立っていることには驚きました。 水谷 当面は年間7000万円くらいのビジネス規模でしょうけど、現在の東アジア、ASEANからさらに広範囲にアライアンスを広げていくので、急速に成長する可能性があります。ポテンシャルは非常に大きいと感じています。
実際にベトナムなどでは、水面下で案件も動き始めています。やはり、各国のナンバーワンソフトを10以上束ねるアライアンスというのは、それだけで大きな価値があるんですね。参加したベンダー同士も、その価値の高さゆえに結束力が高まる。国によっては有力なソフトが一つしかないところもありますから、ALAEに追随して同じようなことをやろうと思っても、もはや手遅れです。
──保守的な印象が強い業務ソフト業界ですが、PCAの取り組みはユニークさが目立つ印象です。 水谷 お客様のニーズに応えるのがわれわれの使命なんです。日本のSMBにも海外進出のニーズは間違いなくあります。しかし私どもはかつて、マレーシアに進出して苦杯を舐め、お客様にも大迷惑をかけてしまった。こういう失敗は二度と許されないということで、ゼロから考え直した結果がALAEです。
クラウドも同じで、80年代から複数拠点をどう結んで会計などを一元管理していくかというテーマはありましたが、現実的なコストでは実現できなかった。通信技術やサーバー側の仮想化技術の進歩をフォローしながら、お客様のニーズに応え、その利益を守るという目的に向かって試行錯誤してきたからこそ今があると思っています。
──今後の目標はどこに置きますか。 水谷 まず、今期は売上高92億円という前期比減収の計画ですから、来期はもう一度これを100億円に乗せます。そして、次に目指すのは売上高200億円です。
──いつまでに? 水谷 具体的には言いづらいですね(笑)。ただ、10年後というような悠長な話ではなく、少なくとも在任期間中には達成したいと考えています。そのためには、やはりクラウド、クラウド、クラウドですよ。PCAクラウドの導入事例も100件以上そろえて事例集として公開していますから、パートナーの皆さんにも、どんどん活用していただきたいですね。

‘お客様のニーズに応え、その利益を守るという目的に向かって試行錯誤を重ねてきたからこそ今がある。’<“KEY PERSON”の愛用品>力強いサインを演出する万年筆 2007年に社長に就任した際、大学の同級生で、内部統制の権威である法政大学教授の石島隆氏から贈られたモンブランの万年筆。石島氏は公認会計士試験に一緒に合格した戦友でもある。「文字に力強さが出る」として、重要な書類へのサインには必ず使う。
眼光紙背 ~取材を終えて~
社長就任時のインタビューが『週刊BCN』に掲載されたのは、7年半前のことだ。業務ソフト市場でのポジションについて、「過去にはトップにいたわけですから、再度、トップに戻すことが私の課題です」と言い切った水谷社長。その決意はまったく揺らいでおらず、目標実現のための環境を辛抱強く整え、「足場固め」はひとまずの完成をみたかたちだ。しかし、言葉の端々に、「ここがゴールではない」という強い思いが感じられたのが印象的だった。
水谷社長の視線の先には、間違いなく業界トップをひた走るOBCの姿がある。現時点では、売上規模で100億円の差があるが、クラウドのポテンシャルはこの差を埋めて余りあると考えている。OBCも、主力業務ソフト群のクラウド対応版を発表したが、PCAとはまったく異なるクラウド戦略を採ったことは記憶に新しい。両者のこの大きな「違い」が、ユーザーやパートナーにどう受け入れられるか。「クラウドは一朝一夕に成果を出せるような簡単なビジネスじゃないんですよ」と苦笑交じりで語る水谷社長には、先行者としてのプライドと余裕が感じられた。(霞)
プロフィール
水谷 学
水谷 学(みずたに まなぶ)
1958年3月、三重県生まれの56歳。80年3月、中央大学商学部卒業。同年7月、昭和監査法人(現・新日本有限責任監査法人)に入社。89年12月、ピー・シー・エー(PCA)に入社し、システム企画室長に就任。以降、取締役、常務取締役、常務取締役開発技術担当CTO(最高技術責任者)、専務取締役、取締役副社長を歴任し、2007年6月に社長就任。公認会計士。
会社紹介
中堅・中小企業向け業務ソフトウェアベンダー大手。1980年8月に、故・川島正夫氏ら公認会計士の有志が設立した。2000年に東証二部に上場。08年、クラウド業務ソフトの「PCA for SaaS」(現PCAクラウド)の提供を開始した。11年、業務ソフトのラインアップを「PCA Xシリーズ」として大幅リニューアル。14年12月には、東証一部上場を果たした。14年3月期の売上高は前期比38.7%増の104億7400万円。