“台湾の京都”台南で育つ
──キヤノンやリコーなど日本のプリンタメーカーも3Dプリンタへの参入意欲を示しています。ですが出遅れている印象は拭えず、御社のように世界2トップに食らいついていくという意志がどこまであるのかもまだみえてきません。 沈 当社はEMS事業を手がけていることもありますので、他社の批評は控えさせていただきます。むしろ3Dプリンタをつくるときは、率先してノウハウを蓄積している当社に、ぜひ発注してほしいところですね。光造形方式の上位機は、とても20万円台の価格とは思えない精緻な造形物を出力できる自信作です。ぜひ見て、触って、評価していただきたい。
とはいえ、日本の電機メーカーの事業継続力には、すばらしいものがあります。NECや日立製作所、東芝など創業100年を超えて今なお成長を続けている企業がたくさんある。変化が激しいIT業界で老舗企業が勝ち残り、次の100年につなげていくのは容易なことではありません。私の出身は台湾南部の古都・台南で、日本の方々には「台湾の京都」などといわれることもあります。伝統的な土地柄で、日常会話は北京語ではなくて台湾語。私の両親は日本語も堪能だったこともあって、日本企業の文化や粘り強さは、体感的に理解しているつもりです。
当社もそうですが、台湾の電機メーカーは、日本の老舗電機メーカーに比べて若いこともあり、トップが「やる」といったら、しゃにむに前へ進んでいく気質が強いのです。日本の電機メーカーはあれこれ考えすぎて行動に遅れが出てしまうところがありますが、それでも粘り強く事業を継続、発展させていく点は見習うべきと考えています。
──沈さんは「やる」と決める立場にあるわけですが、今回の3Dプリンタを「やる」と決めるにあたっての、何か裏づけのようなものはあったのですか。 沈 そうですね。答えになっているかどうかわかりませんが、今の子どもたちが大人になる頃の社会を想定するようにしています。先日、自宅でのことですが、子どもがおもちゃのクルマにまたいで遊んでいたんですよ。ハンドルがついて、足でこいで前へ進むのですが、それを一緒に見ていた妻が、「この子が本物のクルマに乗る頃には、ハンドルがなくなっているでしょうね」と。
つまり、クルマの自動運転が普及し、ハンドルがないばかりか、運転免許すら要らなくなっているかもしれないということなのです。仮に免許は必要だとしても、日本のAT限定免許のように、自動運転限定免許のような制度ができていることは想定できませんか。中長期の成長を成し遂げるには、こういった視点が大切だと思うのです。
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