海外売上比率50%を目指す
──人材の育成・確保をさらに進める施策は? 齊藤 上流からの課題解決型提案モデルを手がけることができるコンサルティング部隊の整備も加速しないといけないと考えています。必要に応じて、M&Aも含めて検討する方針です。
社会イノベーションモデルというのは、この上流のコンサルが、PDCAサイクルを回して、データを活用した継続的なイノベーションのサイクルを実現できなければ、本来の役割を果たすことができないというのが私の考えです。
──そうした人材は、これまで日立が培ったノウハウを身につけている人たちが、IoTの具体的な案件を多く手がけるようになれば自然と育つのでしょうか。 齊藤 これまで日立が経験した、さまざまなインフラの構築、運用、ものづくりのノウハウが役に立つのは確かでしょう。ただし、ビッグデータ、IoTのビジネスには、お客様側からの視点も必要です。日立グループと東京電力は、昨年、東電子会社のシステムインテグレータ(SIer)であるテプコシステムズを分割し、日立システムズが筆頭株主になるかたちで日立システムズパワーサービスを設立しましたが、これは一つのモデルになるでしょう。お客様側の視点をもっている人材・組織を活用しながら、日立グループの中にコンサルできる人材を育てる。けっこうハードルは高いですが、地道にやるしかありません。でも、ニーズはあるわけですから、人が育ちさえすれば、ビッグデータ、IoTのマーケットはうまく回っていくという期待はあります。
──2016年度以降の次期中計では、どんな目標を掲げますか。 齊藤 グローバルでの真のメジャープレイヤーになるということに尽きますね。そのためにも、海外売上比率は、50%を目指します。少なくとも、2018年度~2020年度くらいには、これを達成しなければならないと考えています。
今年は、北米で、HDS(Hitachi Data Systems)やHCC(Hitachi Consulting Corporation)の人材が参加して、社会イノベーション事業ユニットという組織をつくり、具体的なPOCプロジェクトが走り始めます。グローバルの最先端IT市場である北米で新しいチャレンジをして、攻めに転じます。一方で、国内市場は我慢の年になるでしょうが、「One Hitachi」を合い言葉に、いくつかのプロジェクトをつくって、社会イノベーションモデルの構築に取り組んでいくという方針は北米と同様です。
国内でしっかり我慢して、グローバルでは新しいことをやってみる。この攻めと守りが両立できなければ、社会イノベーションをきちんとしたビジネスのかたちにはできないし、グローバルのメジャープレイヤーにもなれないと思っています。

‘「One Hitachi」を合い言葉に、いくつかのプロジェクトをつくって社会イノベーションに取り組んでいく’<“KEY PERSON”の愛用品>「消えるボールペン」が手放せない メモを取りながらアイデアをアナログでビジュアル化するのが習慣となっている。摩擦で消すことができるパイロットの「フリクションボール」が登場してからは、よりきれいにメモを残すことができるようになり、まさに「手放せなくなった」という。
眼光紙背 ~取材を終えて~
長い間、制御システムを手がけてきた齊藤社長は、ビッグデータやIoTの世界が、制御システムの世界に似ていると感じている。制御システムの設計は、すでに現場にある機械をどのように使うかという、いわば「機械ありき」の発想でシステムを設計するという考え方が基本。IoTも、ネットワークでさまざまな「モノ」がつながることで何を実現できるのかというアイデアが、ビジネスの種になる。IoTがもたらすメリットについては、ITベンダー側がその青写真を提案できなければ、市場は生まれない。
社会インフラ分野は、2020年の東京五輪まではそれなりの規模の投資が見込まれるものの、IoTの適用に関しては、大型案件ラッシュという雰囲気はまだない。グローバルのメジャープレイヤーを目指す日立には、国外でチャレンジする「攻め」と同等かそれ以上に、国内でもソリューション提案型の社会イノベーション事業を加速させてほしい。重電から通信、ITまでカバーする総合力を生かし、IoT市場の本格形成をリードする役割を担うことができるベンダーは、齊藤社長が言うように、非常に限られている。(霞)
プロフィール
齊藤 裕
齊藤 裕(さいとう ゆたか)
1954年12月生まれ。岩国市出身。東京大学工学部を卒業後、日立製作所に入社。大みか工場電機制御システム設計部長、システムソリューショングループ情報制御システム事業部システム設計本部社会システム設計部長、情報・通信グループ情報制御システム事業部電機制御システム本部長、情報・通信グループ情報制御システム事業部長、理事情報制御システム社社長、執行役常務情報制御システム社社長兼スマートシティ事業統括本部副統括本部長、執行役専務インフラシステムグループ長兼インフラシステム社社長などを歴任。2013年4月、執行役専務情報・通信システムグループ 情報・通信システム社社長に就任。2014年4月から現職。
会社紹介
日立製作所の社内カンパニーである情報・通信システム社は、IT関連事業の中核を担う。ストレージ、サーバー、ミドルウェア、通信ネットワーク機器などのITプラットフォーム、コンサルティングやシステムインテグレーションなどのソリューション・サービスまで幅広く手がける。「技術と協創による社会イノベーションへの貢献」を事業ビジョンとして掲げている。2015年3月期の売上見通しは、2兆200億円。