日本市場に長期でコミットする会社にしたい
──ところで、マーケティングオートメーションは米国起源の手法ですよね。これは、日本の企業風土になじむものなのでしょうか。 福田 確かに、米国と日本とでは、すべてではないにせよマーケティングのあり方や考え方が異なります。例えば、数理学的な考え方やプロセス管理をマーケティングに持ち込み過ぎるのはよろしくないという「アート偏重のカルチャー」が、日本の企業には依然多く見受けられます。
ただし、オラクルで米国に赴任したばかりの頃、私は赴任先の米国人からこう言われたことがあるんです。「日本人は、すごく精度の高い生産管理をやっているのに、どうして営業分野のマネジメントにそれを持ち込まないのか」と。これは2000年頃の話ですが、確かに、米国の書店に行くと、営業マネジメント関連の書籍がずらりと並んでいました。これに対して、日本の営業手法関連の書籍といえば、いわゆる伝説のスーパーセールスパーソンの成功物語が主流。どうも日本の企業人には、セールス/マーケティングといった対人主体の業務に、科学的な分析や技法を持ち込むのを嫌う傾向があるようです。それは、間違いだと言いたいのですが……。
──そうした日本企業のカルチャーをどのように変えていくお考えですか。 福田 アートとサイエンスのバランスをうまく取ることが大きなポイントだと考えいます。おそらく、マーケティングオートメーション一辺倒で押していっても、日本の企業には受け入れられないでしょう。そしてもう一つ、私たちは日本の市場に対し、腰を据えて、長期にわたってコミットしていくつもりです。その考え方の下で、現在注力している施策は三つあります。一つは、マーケターの育成であり、もう一つは社会貢献。社会貢献の施策では、NPOの活動などを支援していきます。そして、三つ目は、先ほど申し上げたユーザー会の活動です。マルケトでは、日本で事業を開始するのとほぼ同時にユーザー会を立ち上げましたが、昨年末の時点で約100名のお客様にご参加いただいており、その数は今も順調に拡大しています。
──パートナー戦略については、どのようにお考えですか。 福田 デジタルマーケティングの世界は進化が速く、ソーシャルメディア一つをとっても、どんどん成長しています。ですから、一社のソリューションですべてに対応するのは不可能で、各社のソリューションと連携しながら、最新・最適な仕組みを提供するというのが、私たちの基本方針です。パートナー企業とともに、よりすぐれたソリューションが提供できるような組織づくり、コミュニティづくりに注力していきます。その取り組みを大きく前に進めるためにも、「デジタルマーケティングならマルケト」といわれるような存在に早くなりたいですね。

‘大きなパラダイムシフトが10年ごとに来るといわれますが、次の10年はマーケティングだと、2年くらい前から感じていました。’<“KEY PERSON”の愛用品>経営者は健康第一 リストバンド型ウェアラブル端末「JAWBONE UP」。マルケトの社長に就くにあたって、先輩経営者から「経営者は健康第一」とのアドバイスを受けて、ウェアラブル端末を購入。以来、自身の“行動分析”で健康管理をしている。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ある飲料メーカーのCIOが言っていた。「新商品は市場に投入してみないと、売れるかどうかがわからない」。マーケティングオートメーションは、この状況を変えるのだろうか。
福田康隆社長は「世界を変える」という言葉に共感して、日本オラクル、セールスフォース・ドットコムとキャリアを積んできた。それだけに、デジタルマーケティングがマーケティングの世界を変えるということに自信をもっている。言葉に遊びのない受け答えに、そう感じることができた。
一方で、日本ではデジタルマーケティングが必ずしも歓迎されているとは限らないことも理解している。日本市場の開拓には、「アートとサイエンスの絶妙なバランス」を取るのがポイントだという。製品のすばらしさを一方的に伝えがちな外資系ベンダーとは、一線を画している。
マルケトは、自社でもマーケティングオートメーションを活用しているという。同社のソリューションが売れるかどうかからも、マーケティングオートメーションの効果を知ることができる。(弐)
プロフィール
福田 康隆
福田 康隆(ふくだ やすたか)
早稲田大学卒業。1996年に日本オラクル入社。2004年に赴任先の米国で、米国セールスフォース・ドットコムに転職。米国で日本市場におけるオペレーションを担当後、2005年に日本法人に着任し、日本市場における成長をけん引してきた。2012年に専務執行役員兼シニアバイスプレジデントに就任。2014年6月より現職。
会社紹介
2007年、マーケティングオートメーションの会社として米国のシリコンバレー(サンマテオ)で創業。デジタルマーケティング市場の拡大とともに成長し、2013年に米ナスダックに上場した。グローバルのユーザー数は約4000社。日本法人の設立は2013年11月で、14年3月に営業を開始している。