シェア拡大から次のフェーズへ
──2009年に日本法人が設立され、国内市場でのシェア拡大に力を注いできましたが、今後はどのような方向に進もうとしているのですか。 大岩 アクロニスは現在、データ保護の新たなコンセプトとして「AnyData Engine」をワールドワイドで掲げています。これは、さまざまな環境に分散するデータを一元的に管理し、セキュアなモバイルアクセスや災害復旧を実現するという考え方です。これにもとづきながら、アクロニスは製品・サービスの開発・提供を推し進めていますが、日本でも新しいビジネスモデルを策定しています。この取り組みの一環として今、クラウド型バックアップサービス「BaaS(Backup as a Service)」のパートナーや、モバイル関連のパートナーを開拓しているところです。
──先ほど、バックアップのアタッチレートが約2割とのお話をいただきましたが、裏を返すと、「バックアップは不要」と考えるユーザー企業がかなり多くいたともみなせます。そんなユーザーの意識に大きな変化は期待できるのでしょうか。 大岩 確実に変わっていくはずです。とりわけ今日では、ビッグデータの潮流のなかで、「データ利活用」の必要性・重要性に対するユーザーの認識・理解がかなり深まっています。ですから今後は、バックアップを求めるユーザー企業の数が、右肩上がりで、しかも急速に増えていくはずです。
── 現在、BaaSの注目度が高まっており、御社でもサービスを手がけておられますが、その事業のスタンスを、改めて確認させてください。 大岩 このサービスは是が非でも普及させなければならない。クラウドの市場が今後縮小することはないでしょう。ですから、当社としても、企業へのBaaSの浸透に力を注ぎ、それをベースとしたサービス・メニューも拡充していきます。1年後には、何らかの成果が得られると見込んでいます。
──BaaSパートナーは、ライセンスを販売するパートナーとはまた別の企業になるのですか。 大岩 当社のどの製品・サービスを販売するかは、パートナーが決めることで当社が決めることではありません。パートナー各社が、売りやすいと判断したほうを売っていただければ、それでいいわけです。とはいえ、BaaSの販売とソフトウェアライセンスの販売とで契約上の条件面で違いを出さざるを得ません。ですから、今夏をめどに新しいパートナープログラムを立ち上げる予定です。
──売上目標など、具体的なものはありますか。 大岩 ありますが、公表はできないので、内緒です(笑)。とにかく、米国本社からは「大きく伸ばせ」とかなりのプレッシャーをかけられている、とだけいっておきましょうか。実のところ、アクロニスの場合、日本の売上比率が比較的高く、その分、本社の期待も大きいですし、人材にも積極的な投資をしてくれているんです。ですから、自分に課せられた目標はクリアしたいと考えていますし、そうできると確信しています。

‘バックアップに特化しているからこそ提供できる価値がある。それが、われわれの強みです。’<“KEY PERSON”の愛用品>書かないと記憶に残らない 「IT業界にいるにもかかわらず、お恥ずかしい……」と、照れくさそうに教えてくれた愛用品はメモ帳。肌身離さず持ち歩いている。「何か書かないと記憶に残らないから」とのこと。タブレット端末よりも使い勝手がいいそうだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
アクロニス・ジャパンでは、代表取締役という肩書きはついているものの、大岩憲三氏はさまざまなメーカーでパートナー企業との協業に力を注いできた経験を生かす。「パートナー企業やユーザー企業を訪問して、求めていることを直に聞く。そして、メリットにつながることを、走りながら取り組んでいく」という。アクロニス・ジャパンは大きな会社ではない。「競合他社との最大の差異化点は小回りが利くこと」。そのため、「社員にも自分の範囲を決めないでほしいと伝えている」そうで、ミッションには決して線を引かない。
大岩氏が社長に就任する前の設立から2015年1月までの体制では、国内市場でのシェア拡大を最優先に進めてきた。イメージバックアップでは上位シェアを確保しているものの、「知名度が高いとはいえない」。そのため、今後は日本に根付いた取り組みを進める。「大岩新体制」のもと、次のフェーズに入ったアクロニス・ジャパンが、どのようなビジネスを手がけていくかに注目が集まる。(郁)
プロフィール
大岩 憲三
大岩 憲三(おおいわ けんぞう)
1960年2月11日、福岡県出身。アップル、コンパック(現・ヒューレット・パッカード)でキャリアを積み、シマンテック、マカフィー、レノボ・ジャパンで、GMや事業責任者などを歴任。のちに入社したシュナイダーエレクトリックでは、パートナー営業本部長を務めた。2015年2月、アクロニス・ジャパンの代表取締役に就任。
会社紹介
バックアップソフトメーカー、米アクロニスの日本法人として2009年に設立。法人向けにバックアップ関連製品のライセンス販売を展開しているほか、最近ではクラウドサービスの提供にも力を注ぐ。また、コンシューマ向け製品もラインアップし、提供している。