パートナーがビジネスを行うための技術を提供
──今後、QNAP製品の普及を拡大していくためにどのような施策を打っていくつもりですか。 郭 お客様に「適切なソリューション」をお伝えしていく。QNAPではクラウドとNASのハイブリッドソリューションこそが適切であると考えています。また、NAS製品のみならず、アプリケーションやデータセキュリティなどをより充実させることで、トータルの価値を高めていきたいと考えています。
当社では、開発者やサービス事業者が、NASを利用して独自のアプリケーションやサービスを構築できるSDK(ソフトウェア開発キット)を公開しており、日本企業との間でエコシステムを拡大していきたいとも考えています。実績として、オンキヨーとの協業により、PCを使わなくても同社のサービスから音楽データを直接ダウンロードできるNASを開発し、昨年末に発売しました。自社のサービスに最適化したアプライアンスとして、QNAPのNASを活用いただけるのです。
──QNAPでは家庭向け製品と法人向け製品の両方を展開していますが、この方針は今後も変わらないのでしょうか。ビジネスとしては、利益の大きい法人向けに重点を置くという戦略も考えられると思いますが。 郭 法人向けのほうが製品単体の利益率が高いのは事実ですが、サポートやローカライズなどでよりきめ細かな対応が求められるので、その部分にコストもかかるし、簡単なビジネスではありません。法人市場は、製品の販売や導入を担っている各国のローカルパートナーに期待する部分でもあります。われわれは、エンタープライズのニーズを満足できるテクノロジーをご提供する。そこに、業務で使用するための付加価値をパートナー各社が加えて、エンタープライズのお客様に提供していただく。
──QNAPにとっては、エントリクラスの製品のユーザーも大事な顧客ということですね。 郭 そのようなユーザーの声も私に届いています。先ほどお話しした仮想環境の機能ですが、これはもう5年くらい前にユーザーから言われていたんです。「NASでWindowsやLinuxを動かしたい、サポートしてくれ」と。ようやく昨年提供できましたが、現在仮想化技術は、サポートの切れたWindows XPでしか動かない業務アプリケーションを仮想環境で利用するという用途でも活用されています。
──QNAP製品では、新しい技術や機能をかなり積極的に採り入れているという印象を受けました。 郭 QNAPの社員も、とにかくNASが好きな人間ばかりなんです。NASという製品に対する情熱をもって、これまで誰も思いつかないような新しい使い方を開発し、お客様に提案していく。NASに情熱のない人はQNAPにはいられない(笑)。あるときはメディアプレイヤーに、またあるときは業務システムになるといったように、NASはソフトウェアで使い方を定義できる、奥が深い世界をもっています。それが、私がこの製品にほれ込んでいる理由なのです。

‘データを自分でどう保全するのか。クラウドサービスの普及によって、NASを必要とする人が増えているのではないでしょうか。’<“KEY PERSON”の愛用品>旅の安全と成功を祈願する QNAPなど多数の企業を含むIEIグループのトップを務める郭博達氏は、上海の自宅と台湾の本社を毎週行き来し、世界各地への出張も多い。旅の安全とビジネス成功の願いを込めた数珠を、常に身に着けているという。
眼光紙背 ~取材を終えて~
小規模ビジネスやコンシューマに向けた製品で成長したQNAPだが、インタビューのなかでも語られたように、最近ではハイエンドモデルの売り上げが伸びているという。郭CEOは「ラージエンタープライズ向けのストレージベンダーとは市場を棲み分けており、競合しない」と言うが、製品のスペックは大企業やデータセンターにも対応できるレベルに達している。これまでの事業を守るため簡単には価格を下げられない既存の大手ベンダーの目には、QNAPのようにエントリー市場からエンタープライズ市場へ駆け上がってきたNAS専業各社は、市場を侵食する脅威として映るかもしれない。
もっとも、産業用IT機器のグループ6社を率いる企業トップでありながら、NASを語るときの郭CEOの表情は、完全に一エンジニアのそれに戻っている。ハイエンドモデルの伸びも、ビジネス面での成功に加えて、技術的に高度な製品が市場に受け入れられたこと自体にも大きな喜びを感じているようだ。(螺)
プロフィール
郭 博達
郭 博達(Teddy Kuo)
1961年、台北・汐止生まれ。テキサスインスツルメンツ台湾で技術者として勤務の後、1997年に産業用PCの開発・製造を行うICPエレクトロニクス(現・IEIインテグレーション)を設立。現在は同社CEOに加え、IEIグループCEO、QNAP Systems CEOなどを兼務する。上海在住。
会社紹介
台湾でIT機器のOEM/ODMを手がけるIEIグループ(威強電集団)傘下のネットワーク機器ベンダーとして2004年に設立。2006年にSATAインターフェースを採用した世界初のNAS「Turbo NAS TS-101」を発売し、現在は個人向けからデータセンター向けまで幅広い製品をラインアップしている。