IT業界はすごい
──チャリティと駅伝がマッチするのは、スポーツが健全な精神につながるからでしょうか。 まあ、世の中、スポーツをやっていても健全な精神とはいえなくなっちゃったからさ。人を裏切って、人の足を引っ張って、お金持ちになることに意味があるのかなって。誰だってお金やモノはほしいよ。それはわかっている。でも、最近はそっちに行き過ぎているんじゃないかなと思うんですよ。
チャリティ活動をしていると、よく聞かれるんですよ。「なんで駅伝やっているんですか。見返りがあるんじゃないですか」って。自分にできることだからやっているだけなんです。僕はテレビに出ていたので、チャリティ駅伝を始めやすい立場だっただけ。見返りなんて、ないですよ。
チャリティ駅伝で有用なのは、競争ではないということ。そういうもんじゃなくて、参加すれば優勝なんです。参加することで、恵まれていない人が助かっているんですから。
──IT業界は、うつ病になる人が多いんです。ほかの業界の倍以上という統計もあります。 まあ、世の中は人間関係がけっこう難しいですよ。そもそも日本は、人と接しにくい社会なんじゃないかな。知らない人のことは知らないよって。
──そうかもしれないですね。 ただ、IT業界はすごいですよ。大会委員会には、IT企業の幹部の人がたくさん参加していて、しっかり運営してくれるので、3年目くらいから、僕は何もやっていない(笑)。今までやってきたチャリティ駅伝のなかで、一番しっかりしている。
1年くらい前から準備をして、定期的に会議をするなど、駅伝の運営に関しては、もうプロに近い。だから、僕はできるだけ早く抜けようと。僕がいなくてもいいし、逆にいないほうがいい。もう十分に実績があるからね。それから石毛(宏典)さんがいますし。かなり人気者ですから。
──チャリティ駅伝には、私も参加してみたのですが、本当に楽しい。タスキをつなぐのが、こんなに楽しいなんて知りませんでした。 世の中は一人じゃない、チームなわけ。自分の状態がよいほど、まわりを助けようという気持ちになる。それでまた、自分の状態がよくなるよ。間違いない。人のために頑張ったら、何倍にもなって返ってくる。
だから、世の中の役に立つには、自分を強くしないといけない。なんでもそうだと思うよ。ある程度、自分の力があって、それで世の中の役に立つかどうかということになる。それを考えると、けっこう人生がうまくいくんですよ。けっこう、うまくいく。
──ちなみに、チャックさんは、走らないのですか? ひざが悪いから。昔はマラソンを走ったこともあるけど、パワーリフティングをやったり、柔道や空手をやったりして、もう、両膝の半月板がない。
──耳を見ると、本気で柔道をやっていたことがわかります。 それは過去形ね。年を取ると、過去形になるわけ。それよりも、明日、来週、来年、何をやるのかが大事です。

‘自分の力があって、それで世の中の役に立つかどうか。そう考えると、人生がうまくいく。’<“KEY PERSON”の愛用品>ITチャリティ駅伝を盛り上げるチャック体操(写真は第4回大会) NIPPON ITチャリティ駅伝では、開会式で「チャック体操」を毎回実施している。チャック体操のルーツはエアロビクス。チャックさんは、日本にエアロビクスを紹介した人としても知られている。
眼光紙背 ~取材を終えて~
有名人は何かと誤解されがちだ。チャリティ駅伝の実行委員長をボランティアでやっているとは、簡単には信じてもらえないという。確かに、有名人ゆえ、高額なギャラを要求しているとしても、まったく疑問はない。本来なら、あらぬ疑いに嫌気がさしそうだが、ずっとやり通している。恵まれない人がいれば、放っておけないのが本来の人間だと熱く語ってくれた。
インタビューの途中、世の中には悪いやつが多すぎると語り始めたチャックさんは、本気で怒っていた。「世の中は、汚くて、裏切りがあって、うそばかりで、騙し合い、人の足の引っ張り合い」だと。楽しく陽気なスポーツマンとのイメージを勝手に抱いていただけに、少し驚いた。
チャリティも金を集めるだけでは、うまくいかない。だから、駅伝なんだということで、妙に納得した。
企業は利益を上げなければいけない。ただ、チャックさんの言葉を借りるならば、金儲けに走るだけではなく、チャリティ駅伝でも走っていただきたい。(弐)
プロフィール
チャック・ウィルソン
チャック・ウィルソン
チャックウィルソンエンタープライズ代表取締役。1946年、米国マサチューセッツ州ボストン生まれ。70年に来日、同志社大学に柔道留学。71年、73年、75年に全日本パワーリフティングでオープン参加にてチャンピオンとなる。78年、日本にエアロビクスを紹介。90年、全日本パワーリフティング110kg級優勝。現在は、ホスティックをコンセプトとした健康カウンセリングセンターを経営するかたわら、全国各地のフィットネスセンターをプロデュースや指導にあたっている。
会社紹介
『駅伝というスポーツを通じて、参加者同士が助け合い、励まし合い、そして、未来を担う若者たちを支え合い、つながり合い、今を乗り越えようとする若者を支援したい』が、NIPPON IT チャリティ駅伝のテーマ。2010年にチャック・ウィルソンさんが企画した。