新興ベンダーの姿勢に疑問
──成長のもう一つの柱であるクラウドアプリケーションは、昨年リリースの青色・白色申告に続き、今年7月には法人向け会計も市場投入し、ラインアップが揃いつつあるという印象です。 新たなお客様をお迎えするためには、非常に重要な商材です。これも初年度無償のキャンペーンなどを展開しているので、売り上げへの本格的な貢献にはもう少し時間がかかるでしょうが、ユーザー数の伸びという意味では、今期(2016年9月期)かなり期待できると思っています。法人向けの給与計算、請求書管理も出します。
──2年ほど前から活動を始めたfreeeやマネーフォワードなどクラウドネイティブな新興ベンダーが、クラウド会計ソフトですでに数十万のユーザーを獲得していると発表しています。 個人事業主向けの確定申告ソフトについては、弥生のクラウド対応がやや遅れた部分はありますが、今年3月の段階で、実質的なユーザー数はわれわれがナンバーワンになりました。お客様に情報がきちんと伝わるようにしていけば自ずと拡大していくと思っています。
一方で、ユーザードリブンで動く個人事業主向けと違って、法人向けに関しては話がだいぶ違ってきます。法人の会計業務は、会計事務所に依って立つ部分が非常に大きい。だから会計ソフトも、会計事務所から顧問先に勧めてもらうことが拡販の最大のポイントになるんです。そして、税理士の先生が顧問先に勧める会計ソフトで重視することは二つあって、一つは簡単に使えること、もう一つは安心して勧められることです。責任問題になりますから、3年後、10年後に存在しないかもしれないメーカーのソフトは勧めづらいわけです。こうした観点から、現状では弥生会計のデスクトップ版が圧倒的な支持を得ているわけですが、新たな選択肢としてクラウド会計もリリースしましたので、進歩的な会計事務所を巻き込んで、クラウドの拡大にも取り組んでいきます。会計事務所側のサービスの差異化にもつながるはずです。
──弥生が公表している登録ユーザー数が137万であることを考えると、新興ベンダーのユーザー数は無視できない規模ではありませんか。 Freeeもマネーフォワードも、客観的にみてすばらしい仕事をしていると思います。ただ、実際にアクティブユーザーがどれだけいるのか公表していないし、われわれの情報収集の結果と照らし合わせても、彼らが出す数字はクラウド会計市場の実態を反映していません。資金調達のためには成長が鈍化したと思われてはいけないとか、数字を大きくみせなければならない事情はあるんでしょうが、真実とはいえない数字で飾り立てているのは非常にもったいないと思います。クラウド会計という新しい市場を育てるのにプラスにはならないし、ベンチャーの生態系を健全に保つという観点からもよくない。弥生は将来の顧客にもなり得る起業家層を非常に大事にしていて、支援施策も打ち出しています。起業家の星である彼らの敵だというレッテルを貼られるのは困るんですが、市場の健全化のために、誰かがどこかで指摘しなければならないことだと思っていました。一皮剥けてくれて、いい競争ができるようになるといいんですが……。
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