オリックスとの協業成果を2年後にはかたちに
──オリックスによる買収は昨年の大きなトピックでした。同社とのシナジーをかたちにしていく見通しはいかがですか。 まずはクラウド、保守サービスを核に自力で成長路線を描くべきだと考えていますが、年内にはオリックスとの協業施策を一つ発表できる見込みです。ただ、われわれの売り上げに大きく寄与する協業の成果をみせられるのは、もう少し先のことかなと思っています。既存の資産をお互いに持ち寄るだけでは、それほど大きなシナジーは生まれないんですよね。成長をさらに加速させられるような効果を生むために、共同で新しい価値を創出するようなものをつくっていくことが必要です。
──「フィンテック」(金融とITを融合した新しいサービス領域)などは、まさにオリックス×弥生のシナジーを出しやすいという感じもします。 まあ、期待感は理解できますが、そこはもう少し時間をください(笑)。フィンテックというのは、それなりの規模がないと成立しないので、規模をある程度形成するまで時間がかかりますし、新しい価値を生み出す製品やサービスをそんなに簡単にはつくれないです。これまでにある価値を多少洗練させたとか、なんとなくUIが綺麗になったとかというのは本質ではないので。
現状では、フィンテックがバズワードになってしまって、中身がないサービスもかなりあると認識しています。ファイナンス的なエッセンスがあるテクノロジーを、何でもフィンテックだといってしまうような雰囲気がある。ブロックチェーンの技術などは、まさにこれまでにない価値を提供していますが、そこまで行かないと本当の意味でのフィンテックとはいえないと思っています。
──ということは、弥生としてもそのレベルで新しいものを世に出していくということですね。 そのつもりです。成果を世に示すことができるのは、17年くらいになりますかね。お客様にとって意味のある、本当に役に立つことをやろうとすると、それくらいの時間はかかると考えています。

‘現状では弥生会計のデスクトップ版が圧倒的な支持を得ているわけですが、新たな選択肢としてクラウド会計もリリースしましたので、進歩的な会計事務所を巻き込んで、拡大に取り組んでいきます。’<“KEY PERSON”の愛用品>鞄はビジネスマンの基本アイテム 旅行用のハードケースで知られるグローブ・トロッターのアタッシェケースを愛用している。「鞄はビジネスマンの基本。ハード型が昔から好き」とのこと。特殊な紙でつくられているため、軽くて持ち運びやすいという。
眼光紙背 ~取材を終えて~
冷静かつ快活な語り口はいつものとおりだが、クラウド業務ソフトの新興ベンダーに対しては、これまで取材したなかでもっとも厳しい言葉で批判したという印象だ。複雑な危機感を抱えていることをうかがわせたが、いずれにしても、クラウド業務ソフトの市場づくりを弥生がリードしていくのだという強い意志を感じた。
在任期間は7年半で、IT企業としてはすでに長期政権になった。自身の今後のキャリアをどう考えるかも聞いてみると、「引退勧告ですか」と笑ったものの、「freeeやマネーフォワードに対して圧倒的な競争力を確保し、オリックスとのシナジーで新たな価値を実現するまでが自分の責任。とはいえ、いま46歳で、50歳になったらどうするかとはやはり考えるので、この5年が勝負だと思っています」と答えてくれた。(霞)
プロフィール
岡本 浩一郎
岡本 浩一郎(おかもと こういちろう)
1969年3月生まれの46歳。神奈川県横浜市出身。91年、東京大学工学部卒業。同年、野村総合研究所(NRI)に入社し、システムエンジニアとして証券系システムの開発、マーケティングなどに従事。プロジェクトマネージャーとしてWindowsベースの基幹システム開発ツールの商品化にも携わった。同社在籍中の97年にはカリフォルニア大学ロサンゼルス校で経営大学院を修了。98年に、ボストンコンサルティンググループの経営コンサルタント、2000年には、IT戦略に特化した経営コンサルティング会社を設立し、社長に。08年4月、弥生の社長に就任した。
会社紹介
登録ユーザー数137万を誇る、小規模事業者向け業務ソフトのトップメーカー。法人向けチャネルの中核である会計事務所のパートナー「PAP会員」は、6300事務所に達している。2003年、MBOで前身の米インテュイットから分離独立し、現社名に。04年にライブドアグループの一員となり、07年には投資ファンドのMBKパートナーズを株主に迎え、同グループから独立した。昨年末、約800億円で金融サービス大手のオリックス傘下に。