5年間社長を務めた山本正已前社長(現会長)からバトンを引き継ぎ、2015年6月に田中達也氏が社長に就任した。「野武士軍団」と称され、富士通の強さを支えてきた国内営業部隊で前線に立ち、大型案件を数多く手がけてきた。近年は、アジアを中心に、グローバル市場での富士通の成長をリーダーとして支えてきた実績もある。途上にある大改革の仕上げを担う田中社長が見据える富士通の未来とは──。
よりお客様志向であるべき
──社長就任発表から約1年、実際の就任から半年というタイミングですが、ここまでの率直な感想をお聞かせください。 14年4月にAsiaリージョン長に就任したばかりでしたから、1年で社長になるなんて思ってもいませんでしたよ。最後にアジアでのビジネスをきちんと伸ばしてサラリーマン生活を終えるという気持ちでいたので、ある意味で人生設計が狂いました(笑)。ただ、社長という立場には、グローバルでの成長をリードする責任もある。直近でやろうと思っていたアジアでのビジネス拡大もより強力に推進できるわけで、だったら挑戦しようと腹を決めました。
今まで都度それぞれの立場で、「富士通はもっとこうあるべき」と考えることがあったのですが、社長になってみて、自分の思考の方向性は間違っていなかったという実感をもちました。これまで考えてきたことを実現すればいいと思えたんです。
──どうあるべきだと考えておられたのでしょうか。 よりお客様志向であるべきだとずっと考えていました。それは私が営業出身であることも関係しているかもしれません。お客様のことをより深く知ったうえでサービスを展開していくというのが、本来、富士通の強みであり特徴なんです。しかし、富士通の事業や組織のあり方がそれを実現できるものになっているのか、営業の第一線でお客様と接する立場からするとギャップを感じることも多かったのが、正直なところです。これをもう一回、お客様志向に戻そうとしています。
──先日発表された情報端末事業の分社化もその一環ですか。 そうです。私の経営方針として掲げたのは、「かたち」と「質」を変えるということです。かたちというのは、戦略や組織の設計ということですね。当社が明確に強みをもつコア事業として、テクノロジーソリューションに経営資源を投入する方針を明確にしました。デバイスは山本会長が社長だった時から構造改革を進めてきましたが、PCと携帯電話も、プロダクトアウトでビジネスを考えるのではなく、市場で何が求められているのかを理解したうえで、独立事業体として甘えを排して頑張ってみてくれということで分社化を決めました。
一方、質を変えるというのは、サービスレベルの質やコスト競争力、よりお客様に深く入り込むための業種ノウハウなどを一層高めていく必要があるということです。かたちを変えて、質を高めていけば、富士通のあるべき姿に近づいていくと思っています。
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