今の延長線上に理想の未来はない
──「Digital」の範疇のなかで、2016年、とくに力を入れていく領域は何ですか。 あえて一つ挙げるとすれば「ロボティクス・インテグレーション」ですね。当社グループのNTTデータ経営研究所が主導して手がけているもので、具体的な商材への落とし込みの段階まできています。また、NTTデータ経営研究所では、脳科学の産業応用を推進する産学連携の「応用脳科学コンソーシアム」の運営にも参加するなど、人間の脳の構造を分析する「ニューロテクノロジー」をロボティクス技術に応用するアプローチも行っています。
ロボティクスは、1980年代の産業用ロボットの勃興、その後、個人でも購入できるガジェット的なロボットの時代が続き、そして、今、掃除機ロボットやドローン、コミュニケーションロボットなど第三の波がきています。当社でも、つい先日、りそな銀行の豊洲支店でコミュニケーションロボットによる「顧客対応支援」の実現に向けた共同実証実験を行いました。早い段階で店舗における「顧客誘導」「商品紹介」を担えるようなロボティクス・インテグレーションの実用化にこぎ着けたいと考えています。
──他社の話で恐縮ですが、IBMもコグニティブ(認知)コンピューティングの「Watson(ワトソン)」に力を入れています。 ロボットといっても掃除ロボや人型ロボなど形があるものと、センサや空調制御など気づかないうちにロボット技術を活用しているもの、そしてバーチャルなロボットの大きく三つに分けられます。専門用語では、この三つをビジブル、アンコンシャス、バーチャルと呼ぶのですが、これらを協調させてサービスをインテグレーションすることで、新しいビジネスが生み出せる。先述のNTTデータ経営研究所が手がけている人の脳に関するニューロテクノロジーも、将来的にロボティクス・インテグレーションに役立つ基幹技術になると期待しています。
──4月から新しい中期経営計画が始まりますが、どうイメージしていますか。 中計については、まだ揉んでいる最中ですので、今しばらく待っていただきたいのですが、経営陣の希望というか、野望レベルでは将来的に売上高2兆円超え、海外売上比率50%を狙っていきたいですね。これまでがグローバル化の第1ステージだとすれば、今はグローバル化の第2ステージだと捉えています。グローバルトップのSIer集団で一段と存在感を発揮していきたい。
そのためには、テクノロジーで世界をリードしなければならないし、新しいM&Aを手がける局面も出てくるでしょう。少なくとも今の延長線上に、私たちの描く理想の未来はありません。冒頭の「不連続の発展」を繰り返しながら、大きく飛躍していく構えです。

‘私たちSIerが、このテクノロジーの“断絶”を乗り越えられなければ、そこで成長は終わりです。’<“KEY PERSON”の愛用品>歴史の地で手に入れた勝負カフス 中国の古都「西安」で手に入れた翡翠のカフス。商談の“ここぞ”というときに身につける“勝負カフス”の一つである。秦の始皇帝から始まり、歴代の王朝の都として栄えた西安は、まさに「憧れの歴史ロマンの地」とお気に入りの様子だ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
NTTデータがグローバル第2ステージに突入し、海外売上比率50%を視野に入れる背景には、M&Aによって同社グループに加わった海外法人のビジネスが軌道に乗り始めている現れでもある。
すでに世界42か国、180都市に拠点を展開。直近でも台湾のSAPパートナー企業「台湾応用管理顧問」、フィリピンのオラクルやマイクロソフトのパートナー企業「ウィザーズグループ」を新たにNTTデータグループに迎え入れると発表するなどM&Aを活発化させている。
現地の情勢に精通した海外法人が、新たなM&A先をみつけてくるという好循環も生まれている。
グローバルで均質なサービスを提供する「Global One NTT DATA」体制を掲げつつも、一方で「場合によっては、国や地域の裁量を大きくする」(岩本社長)よう編成し直すなど、柔軟に対応する。
世界のNTTデータグループ各社が、それぞれの力を発揮してこそ、岩本社長が話す「不連続の発展」を乗り越える原動力になるといえそうだ。(寶)
プロフィール
岩本 敏男
岩本 敏男(いわもと としお)
1953年、長野県生まれ。76年、東京大学工学部卒業。同年、日本電信電話公社入社。85年、データ通信本部第二データ部調査員。91年、NTTデータ通信(現NTTデータ)金融システム事業本部担当部長。2004年、取締役決済ソリューション事業本部長。07年、取締役常務執行役員金融ビジネス事業本部長。09年、代表取締役副社長執行役員パブリック&フィナンシャルカンパニー長。12年6月、代表取締役社長。
会社紹介
NTTデータの今年度(2016年3月期)連結売上高は前年度比1.9%増の1兆5400億円、営業利益は同19.0%増の1000億円の見通し。うち国内売上高は同1.5%増の1兆790億円、海外売上高は同2.7%増の4610億円の見込みだ。