次に狙うはグローバルでの存在感
──その後、産業分野の重要顧客がずいぶん増えましたよね。 産業分野は売上高構成比は08年3月期の約19%から約24%へと5ポイントほど増やせましたし、その内容もセブン&アイHDや味の素などの3大顧客に加えて、特定8顧客に向けた商談の大型化が着実に進んでいます。
金融分野でも、たとえ野村ホールディングス向けの売り上げが落ちたとしても、それを補ってさらに成長できるだけの優良金融顧客を多数獲得していますし、金融業向けのいわゆるクラウド/SaaSと呼ばれるような共同利用型サービスも拡充させることができました。例えば、証券会社向け基幹業務システムの「STAR」シリーズをはじめ、投資信託の窓口管理システムの「BESTWAY」、ネットバンキングの「Value Direct」の契約数を伸ばし、これらがストックビジネスとなることで、景気動向に左右されにくい安定収益源になっています。
──16年4月から次期長期経営計画「ビジョン2022」がスタートします。策定にあたっては、どのあたりを重視されたのですか。 「ビジョン2015」でやり残したこと、否、私ができなかったことの一つに「グローバルビジネスの拡大」があります。そこで、「ビジョン2022」ではグローバル事業の売り上げを直近の約4倍に相当する1000億円、全社営業利益1000億円、営業利益率14%以上をシンボリックな目標として掲げることにしました。世界で存在感ある情報サービス企業になるためには、海外での売上高比率を高めることが欠かせません。今のように国内売上高比率95%という状態では、グローバルなベンダーとはいいづらい。次期社長の此本は、海外での実務経験も豊富ですので、ぜひとも期待したいところです。
──海外1000億円は、かなり意欲的な目標ですね。昨年10月には中国の御社有力ビジネスパートナーのSIerから従業員数ベースで約1300人規模の事業譲渡を受けるなど、M&A(企業の合併と買収)を活発化させています。 これはグローバルなシステム開発・保守運用の体制強化が今後の成長戦略の要になると考えて、中国の当社ビジネスパートナーのサイノコムソフトウェアから事業を譲り受けたケースですが、M&Aについては先の「乾坤一擲」も含めたNRIらしさを生かせる点を重視しています。ただ売り上げ規模を拡大させるためだけのM&Aでは、営業利益率14%はとても出せません。
コンサルティングは早い段階から世界の主要都市に展開してきましたが、いかんせんコンサルだけでは売り上げの増収効果は限定的。コンサルティングによるナビゲーションからシステム開発につなげる連携プレーがNRIらしさであり、かつこれに金融や産業に深く刺さる高度で高品質な業種・業務のノウハウを一段と伸ばせるM&Aに挑戦したいですね。

‘震災後の大混乱で、転落せずに踏みとどまれたことが、私自身と当社NRIグループ全社員の自信となって、その後の増収増益路線への転換につながった’<“KEY PERSON”の愛用品>根来塗で日本料理を楽しむ 紀州伝統の「根来塗(ねごろぬり)」の箸。母方の実家が和歌山県で、地元の漆塗りの代表的な技法の一つが「根来塗」である。嶋本社長は「日本料理によく合い、手触りや視覚的にも和を感じながら食事が楽しめる」と、愛用している。
眼光紙背 ~取材を終えて~
社長を退いた後は、どうするおつもりですかと問うと、「IT業界に入ることを志す若者がひとりでも増えるように、高校生や大学生と交流できるような機会を増やしたい」と、嶋本社長は話していた。
学生の視点でみたときに、「ITといえば米大手IT企業のような華々しいイメージをもつことが多いが、日本の情報サービス業界もそれに負けない魅力がある」ことを伝えたいのだという。社会や産業の発展を支え、推進していく原動力となるのがITであり、それをつくり出すのが情報サービス業であると。
嶋本社長自身、システム技術者のキャリアをもち、「つくる」ことには相当のこだわりをもつ。レバレッジを効かせるために開発を協力会社に委託することもあるが、行き過ぎると現場の技術力の空洞化を招きかねない。若い人たちには「つくる楽しさ、それによって社会や産業が繁栄することの満足感をもっと知ってもらいたい」と朗らかに話す。(寶)
プロフィール
嶋本 正
嶋本 正(しまもと ただし)
1954年、和歌山県生まれ。76年、京都大学工学部卒業。同年、野村コンピュータシステム(現野村総合研究所)入社。01年、取締役情報技術本部長兼システム技術一部長。02年、執行役員情報技術本部長。04年、常務執行役員情報技術本部長。08年、専務執行役員事業部門統括。同年、代表取締役兼専務執行役員事業部門統括。10年4月1日、代表取締役社長に就任。
会社紹介
野村総合研究所(NRI)の今年度(2016年3月期)連結売上高は前年度比4.7%増の4250億円、営業利益は同12.7%増の580億円を見込む。今年4月1日付で此本臣吾専務にトップの座をバトンタッチし、新しい中期経営計画「ビジョン2022」をスタートさせる。