M&Aした事業会社が大きく成長する
──今後の成長の方向性について教えてください。 当社グループには、冒頭のAUTOSARもありますし、半導体や製造エンジニアリング、ロボティクス/AIなど収益の柱が複数あります。今日は、組み込み系に偏ってしまいましたが、業務向けシステム開発の実績も多い。大手リース会社の基幹システムをアジャイル方式で開発したことがありますし、ネクストスケープのコンテンツ配信は勢いに乗っています。当社グループの転機をもたらしてくれたオープンストリームは、当社グループに加わる以前と比べて、売り上げは約2.7倍、営業利益も倍増しています。2009年にグループ入りしたネクストスケープは、加入以前と比べて売り上げで約2.4倍、赤字から高利益体質へと生まれ変わりました。
──荻原さんは、コンピュータソフトウェア協会(CSAJ)の会長を務めるとともに、業界団体の「IT団体連盟(仮)」の立ち上げにも深く関わっておられます。 業界団体での取り組みは次の機会にお話しするとして、さまざまな活動の根源にあるのは、日本のIT産業に対する危機感や焦燥感なのですね。つまり、日本のIT業界はこのままでいいのか──、と。
受託ソフト開発も客先常駐によるエンジニアリング支援も、それぞれ大切であることに違いないのですが、本当にそれだけでいいのかと自問自答するなかで、導き出された解が、自分たちでちゃんと「知財をもつ」ことと「グローバル」での存在感なんです。誤解を恐れずに言えば、日本のITって主に米国のソフトウェアやサービスを輸入して、それを利活用しているだけの“利用産業”に過ぎず、それでは本来あるべき“産業”の体をなしていない気がしてならない。
──それは、御社も同じ課題を抱えているということですか。 そうですね。自社を振り返っても、やはりしっかり自分たちで版権や知財をもったソフトウェアをもっと多く開発し、これを国内外に広く販売していけるようにしていきたい。半導体関連のジェイエムテクノロジーはインドネシア法人をすでに立ち上げており、ASEANへの進出を本格化させています。歩調を合わせるかたちで、豆蔵HDグループとしても、自分たちでつくりだしたソフトウェア知財や組み込み/制御系、さらには業務系のノウハウの強みを生かしつつ、国内外でビジネスを伸ばしていく方針です。

‘資金が不足しているのであれば、資金を補充する。経営方針が割れているのであれば、どちらかバッサリと切る。そして、一番大切なのはゴール(勝利条件)を明確に決めること。’<“KEY PERSON”の愛用品>験担ぎの勝負時計 スイスの「ジャガー・ルクルト」。この時計をつけていたとき、「抱えていた課題が立て続けに解決した」ことが偶然にも重なった。以来、ここぞというときの“験担ぎの勝負時計”として愛用している。
眼光紙背 ~取材を終えて~
現役の柔道二段。自ら試合にも出場するとともに、「豆蔵柔道クラブ」の道場長も務める。グループのトップの立場で、万が一ケガでもしたら一大事では?との問いに「何ごとも刺激がないとおもしろくない」と、明朗快活に答える。
ソフトウェアは、あらゆる工業製品の付加価値の中核を占める。荻原社長は、「この部分が弱いと、日本の基幹産業である製造業の競争力もおぼつかなくなる」と危機感を募らせ、自分たちでできることは貪欲に取り組んでいく構えを示す。
そのために積極的なM&Aを展開し、業務系のみならず組み込みや制御、エンジニアリングに強みを増してきた。M&Aはリスクを伴い、なかには債務超過状態の会社もあったというが、そこは荻原社長。刺激を存分に楽しみながらビジネスを牽引している。(寶)
プロフィール
荻原 紀男
荻原 紀男(おぎわら のりお)
1958年、東京生まれ。80年、中央大学商学部卒業。83年、公認会計士試験合格。同年、アーサーヤング会計事務所(現アーンスト&ヤング)入社。86年、朝日監査法人(現あずさ監査法人)入社。96年、荻原紀男公認会計士事務所設立(現税理士法人プログレス)、99年、豆蔵(現豆蔵ホールディングス)設立。コンピュータソフトウェア協会(CSAJ)会長。柔道二段。豆蔵柔道クラブ道場長。
会社紹介
豆蔵ホールディングスの今年度(2016年3月期)連結売上高は前年度比56.3%増の200億円、営業利益は同24.1%増の14億円の見込み。製造業向けエンジニアリングサービスに強いジークホールディングスが連結に加わったことで、過去最高の売上規模になる見通しだ。直近のグループ主要事業会社は15社。