日本と欧州でM&A資金の奪い合いに
──近年、海外のDCを活用するケースも増えています。データの越境規制の問題はあるにせよ、近い将来は、シンガポールあたりが東京の競争相手となるのでしょうか。 日本法人の社長としては、米本社から日本により多くの資金を投資させたい。でなければ、日本で「選ばれるDC」はつくれませんからね。それに、日本にハブとなるDCが存在するかどうかは、欧米からアジアをみたとき、まずどこに拠点を置く(投資をする)かの判断を大きく左右します。ASEANに投資をしようと考える日本企業が、まずはシンガポールに拠点を置き、シンガポールのDCを使うのと同じように、東京こそがアジアの玄関口であり、ハブであると認識してもらう必要があるのです。経済って、突き詰めるとヒト、モノ、カネが集まるところが繁栄するわけですからね。
──それで、すんなり米本社から投資を引き出せましたか。 いえ、残念ながら、すんなりとはほど遠いものがありました。旧ビットアイル側の経営陣や株主のみなさんとは、足かけ2年くらいかけて信頼関係を醸成しつつ、じっくり話を進めました。一方、米本社に対しては、日本市場の将来性や円安傾向にあること(当時)、日本のIT会社の株価は米国に比べて相対的に安いこと、旧ビットアイルが独立系であり、特定の通信キャリアや特定顧客に依存しない健全な会社であることなどの説得材料を揃えました。
そして、いざ投資を引きだそうとしたときに、米本社が欧州の大手DC会社のテレシティグループのM&A(企業の合併や買収)を仕掛けるタイミングと重なってしまったんですよ。これは当社の社内事情に過ぎないのですが、日本法人としてはヒヤヒヤもので、ビットアイルの案件は、ほとんど首の皮一枚でつながっているような状態でした。テレシティ案件の規模は公式発表でおよそ34億ドル(約4000億円)、ビットアイル案件は約330億円ですが、もろもろの費用を含めるとざっくり5000億円と500億円で10倍くらい多く欧州に投資しています。
──費用的にみて、日本への投資が先送りになっていた可能性もあったと。 ここ1年くらい「首の皮」一枚分の厚さが、いったいどれほどの重み(価値)をもつものなのかが身に染みてわかりましたよ(苦笑)。
[次のページ]