日本が後回しになる事態は避けたい
──なぜ、欧州にそれほど投資することになったのですか。 日本担当の私から詳細については言えませんが、ざっくり言えば、欧州でのDC事業者は三つ巴の状態でした。当社とテレシティと、あと、もう1社のライバルです。そこでテレシティをそのライバルと奪い合って、最終的に当社が競り勝ち、結果として当社グループが欧州最大のDC事業者になることができた。一方、日本では欧州のような強力なライバルが(外資系を除いて)多くない。日本でも通信キャリア系で大手はありますが、私たちはキャリアフリーの独立系DC事業者であることを強みにしていますので、比較対象からは外れますよね。
──つまり、欧州のように何千億円も投じて競り勝つ必要がないのが日本市場だと。 理想をいえば、世界中のIT企業が「何千億円を投じてもいいからM&Aしたい」と思えるようなIT企業が、日本に次々と誕生している状況であれば、より一段と日本のIT市場は活性化していると思いますし、そうした観点を日本のIT産業がもっと意識し、育んでいくことが大切なんじゃないかと今回のM&Aを通じて学びました。それに、外資系の日本法人社長の立場で言わせていただければ、日本への投資が後回しになってしまっては立つ瀬がないですしね。
──インターネット上の「ハブ空港」みたいなポジションに日本がならなければ、日本のDCビジネスそのものが衰退してしまうということでしょうか。 企業活動の多くは企業間の取引き(B2B)が占めるわけで、例えば金融取引であれ、製造業のサプライチェーンであれ、突き詰めればみんなが一つのDC、一つのネットワークに接続口をもてば、オーバーヘッドロスを低減したり、情報セキュリティを高めたりできるわけです。当社のDCにきていただければロスなくB2B取引きができますよ──と。
こうなれば誰もが欲しがるようなアプリケーションやサービスベンダーの呼び込みも容易になりますし、パブリックとプライベートのクラウドを複合的に使うためのインターチェンジのように使っていただきやすくなる。もっと言えば、こうしたインターネットの好立地を日本に呼び込んでおきたいわけです。
──それがネット上の“立地のよさ”の指標になると。 DC事業者がこんなことを言ってしまっては、元も子もないのですが、ある一定レベル以上に達すると、耐震性やセキュリティなどのDC設備で他社の設備と差異化するのはとても難しくなるんですね。多少、築年数がたっている設備でも、ヒトや情報、サービスが集まる仕組みがしっかりしていれば、競争力は簡単には落ちない。今回、米本社から資金を引き出し、日本の設備規模を倍増させたわけですので、今後は自分たちの価値を高める取り組みを一段と加速させていきます。

‘「首の皮」一枚分の厚さが、どれほどの重みをもつものなのか、身に染みてわかった’<“KEY PERSON”の愛用品>判子文化さながらの“サイン文化” どこにでもある水性ボールペン。エクイニクスのような最先端の米国IT企業でも、「日本の判子文化さながらの“サイン文化”」がまだ残っていて、「水性ボールペンのさらさらとした書きやすさはとても重宝している」と、お気に入りだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
古田社長は、総合商社の丸紅勤務時代、中近東や東南アジアの建設部門、北米の不動産開発などに携わった。国際情勢に大きく左右される商社のビジネスは、上り調子のときは“花形”ともてはやされるが、一旦、形勢が逆転すると「撤退に次ぐ撤退の辛酸を何度も味わった」と話す。
事業撤退の“敗戦処理”が続いているとき、ふと父親の「上がったものは必ず下がる」という言葉を思い起こした。経済は目まぐるしく変化し、理詰めで予測することが極めて難しい。そうしたなか「父親の言葉は単純だが経済の本質を言い得て妙」と感じた。
以来、上り調子のときこそ気を引き締めて、先手を打つように心がけている。部下の多くは「こんなに業績がいいのに、社長は何を恐れているのか」と不審がることもあるというが、過去の苦い経験にもとづく古田社長の行動原理はそうそう変えられそうにない。(寶)
プロフィール
古田 敬
古田 敬(ふるた けい)
1963年、東京都生まれ。86年、早稲田大学理工学部建築学科卒業。同年、丸紅入社。中近東や東南アジアでのインフラプロジェクト、北米での不動産開発、情報通信事業企画の立ち上げなどを担当。アバヴネットジャパン代表取締役、大手データセンター事業者の役員などを経て、09年、エクイニクス・ジャパン代表取締役に就任。
会社紹介
エクイニクスの2014年12月期のグローバルでの売上高は約24億ドル(約2800億円)。欧州のテレシティグループや日本のビットアイルが加わったことで、16年は大幅な売上増が見込まれている。グローバルでの展開も世界33都市から40都市へ、拠点数ベースでは105拠点から145拠点へと拡大した。