営業利益率10%水準を目指す
──御社は早い段階から意欲的に業務システムのパッケージ化を推し進めてこられたので、これをテコに隣接領域へと横展開していくわけですね。 そうです。私は日立製作所で公共向けの営業担当が長かったのですが、東京都の会議室やイベントホール向けの設備予約パッケージをニッセイコムと一緒に納入したこともありましたし、ある国立大学向けの仕事では、財務会計パッケージを納めています。2000年前後の話ですが、その頃から「ニッセイコムという会社は、使い勝手のいいすぐれたパッケージをいくつももっているな」と思ったことが印象に残っています。
あぁ、そうそう、さらに遡って90年代後半にはニッセイコムがもってきた「ホワイトボックス」と呼ばれるノンブランドのパソコンを大学向けに納入したこともありました。20年ほど前になりますが、あのときが私がニッセイコムと一緒に仕事をした最初だったと思います。
──国公立大学や独立行政法人向けのビジネスも伝統的に強いですよね。 国立や公立、独法向けの財務会計、人事給与では、ざっと100団体くらいに活用してもらっていますし、今は私学向けの拡販にも力を入れています。
──外からみるニッセイコムと、実際にトップに就いてからでは、みえる風景も違ってくるのではないですか。課題があるとすれば、どのようなところでしょう。 この半年余りでいくつか課題がみえてきたのも確かです。ご覧のように競争力のあるパッケージ開発を強みとする当社ですが、クラウド型のサービス商材の品揃えは少しばかり遅れていますので、今後は既存のパッケージのクラウド対応を進めていきたいですね。従来の客先設置と、継続課金でサービスとして利用する形態を、ユーザーが選べるようになれば、利便性は一段と高まります。
もう一つ、現状の収益モデルでは営業利益率5~6%を安定的に確保することが、正直、精一杯なので、これをなんとか10%水準まで高めていきたい。時間はかかるかもしれないが、継続課金のサービス型への割合を高めることでストックビジネスの比率を高めたり、先述の隣接領域でIoTやAIを活用したデジタライゼーションで売り上げを増やしたり、あるいは2015年4月に開設した九州開発センターの規模をより拡大させて開発生産性を高めるといった取り組みを加速させていきます。
──九州開発センターは、いまどのくらいの規模なのでしょうか。 直近では協力会社を含めて約40人体制に拡充しています。これを早いタイミングで100人体制にもっていき、開発の集約効果をもっと高めていきたい。
世の中への貢献が「やりがい」に
──高収益を生みだす商材づくりに“コツ”のようなものはありますか。 SIerはハード/ソフトメーカーではないので、顧客向けのシステム構築(SI)をするなかでパッケージ化やサービス化を模索することが多い。従来型の受託開発型のSIでの収益力が頭打ちになるなか、ただSIをするのではなく、可能な限り、個別SIでつくったものを他社へ横展開できるような取り組みがより重要になるのではないでしょうか。
私も、日立製作所で大学図書館向けのSIを担当したことがありまして、その案件ではパッケージ化して横展開することを念頭に置いていました。もちろん顧客も了承済みです。ところが、いざSIを始めてみると、その顧客固有の要件が次から次へと出てくるんです。こちらとしては、どの大学でも使えるようできるだけ標準的なシステムに仕上げたかったのですが、やってみると意外と難しい。
──理想と現実のギャップですね。 理想といえば、90年代に筑波大学の先生方と協業してスパコン開発を担当したことがありました。それこそ「ノーベル賞に値する研究のために必要な、新しいスパコンをつくる」という高い理想を掲げて、関係者が一丸となって開発に没頭しました。
──荻山さんは営業畑ですよね。開発も担当されていたのですか。 担当した仕事は、筑波大の研究者の方々と、日立側のハード/ソフトの技術者との調整役、まとめ役です。筑波に常駐し、営業やSEが渾然一体となったプロジェクトで、営業だ、SEだといってられない事情がありました。最後は目標の性能を達成し、関係者みんなで喜んだ思い出があります。
現代において、スパコンをビジネスとしてみると、ご存じの通り厳しいものがありますが、科学の発展にスパコンはやはり欠かせない存在であり、社会に大いに貢献するものです。ビジネスなので、もちろん稼がないといけないわけですが、自分たちが儲けさせてもらうには、まず顧客に儲けてもらわなければなりませんよね。つまり、顧客の価値を高めてこその収益なのです。でも、さらに突き詰めていくと顧客の価値向上は、その顧客が社会で必要とされ、社会の発展に貢献できるものでなければならないと思うのです。
──なるほど、企業ユーザーの先には必ず、エンドユーザーである消費者や市民が存在するわけで、最終的に使う人に価値を届けることが大切ということですね。 理想論かもしれませんが、そうした観点がないと本当の意味で堅牢な収益基盤をつくることはできない。自分たちが手がけている仕事が、世の中に貢献できるものであればあるほど、やりがいも自ずと湧いてくるというものです。
顧客の価値向上は、
その顧客が社会で必要とされ、社会の発展に
貢献できるものでなければならないと思う。 <“KEY PERSON”の愛用品>「できる男」が持つ鞄」 イタリア・ペローニの鞄。1990年代、公共営業を担当していたとき、尊敬する当時の上司が持っていたのをみて、「できる男は、こういう鞄を持つんだな」と思い、後年、同じブランドの鞄を購入。以来、幾度となく修理をしながら10年余り愛用している。
眼光紙背 ~取材を終えて~
営業とは顧客のために悩み苦しみ、顧客と一緒に成長していくもの――だと、長く営業畑を歩んできた荻山社長は話す。今の仕事が、最終的に社会に役立つものであるとの手応えを感じられれば、「やりがいやモチベーションがぐんと高まる」とも。
産学連携でスパコンの開発に寝食忘れて取り組んでいたときも、スパコン開発の成功によって科学が発展し、産業や医療といった市民生活に直結する分野に、間接的にではあるが役立つことが「心のよりどころ」になっていた。
そして、もう一つ、営業マンとして、人間としても成長した証しは「後輩たちにそれを伝えられたかどうか」という。何のために悩み苦しむのかを言葉で説明するのは難しい。自分自身の体験や、行動で伝えるしかない。荻山社長自身も、駆け出しの頃、先輩の背中を見ながら「自分の腹に落としていった」と話す。(寶)
プロフィール
荻山得哉
1954年、埼玉県生まれ。78年、早稲田大学教育学部数学科卒業。同年、日立製作所入社。01年、公共システム第二営業本部長。05年、社会システム事業部公共営業本部長。09年、東北支社長。12年、日立システムズ常務執行役員。14年、取締役常務執行役員営業統括本部長。15年、日立システムズパワーサービス専務執行役員営業・マーケティング統括本部長。16年6月24日、ニッセイコムの代表取締役社長に就任。
会社紹介
日立系SIerのニッセイコムは、機械式駐車設備や凍結乾燥機などを手がける日精のグループ会社。2015年度の年商は204億円、社員数は800人あまり。日立系、日産系の企業が集まる親睦会「春光懇話会」には、親会社の日精とともに名を連ねている。