テクノべーションセンターが推進力に
──HULFTが既存のSI事業の価値も高めているということですね。とはいえ、事業部が主体的に他事業部と連携していく土壌ができるまでには時間がかかる気もします。
昨年4月に設立したテクノベーションセンターが、事業部横断型プロジェクトの大きな推進力になっています。テクノベーションとは、文字どおり、テクノロジーとイノベーションをくっつけた造語で、先端のテクノロジー、具体的には、AI、IoT、ブロックチェーンなど、旬の技術を使って、社内の各部署、お客様、外部のベンダーさんを巻き込んで新しいビジネス開発をする部門です。社内でメンバーを募り、約50人から応募がありました。実際に面接を受けたのが30数人で、現在、7人がこの業務に専任で従事しています。宅配ボックスの実証実験も、テクノベーションセンターが司令塔を担っています。
──テクノベーションセンターはどんな背景があって誕生したのでしょうか。
2年前に中期経営計画策定のリーダーになったときに、重要顧客を少人数で訪問し、「御社を担当している人間の人事評価には影響させませんから」という前提で、当社に対する本当に率直な評価を聞かせてほしいと申し上げたんです。その時に、「御社の方々は、既存の業務については非常にしっかりやってくれるが、新しいテクノロジーや新しい分野の仕事に挑戦しようという気概がまったくない。いまのままだと、どんどん仕事が減っていきますよ」と一様に言われたんですね。
──手厳しいですね。
ただ、これにはやむを得ない側面もあって、お客様の基幹システムの開発や維持業務をしながら、片手間で新しいテクノロジーを使ったシステムをつくるというのは難しい。新しいテクノロジーを活用したソリューションを検討したいというお客様の要望に応えるには、新しい組織が必要になるんです。ただ、それを各事業部につくると、そのコストが事業の利益を圧迫することになりますから、事業部長はそういう判断がなかなかしづらいわけです。しかし、そのままの状態では、セゾン情報システムズは先進的な取り組みを全然やるつもりがないとみられて、新しい案件はどんどん外に出て行ってしまう。だから、本社側の予算でそういう仕組みをつくった。それが、テクノベーションセンターなんです。
最初は社内でもその存在意義が理解されていない部分があったかもしれませんが、メディアなどでわれわれの成果が取り上げられることも近年飛躍的に増え、それがお客様の認知にもつながり、引き合いも増えてきました。社員のモチベーションも全然違ってきていますね。
──自社案件でHULFTなどの活用が促進されるのはポジティブな要素でしょうが、データ連携ツールのメーカーとしては、パートナービジネスとどう両立させていくのでしょうか。
その意味では、HULFT事業部からみると、当社の他事業部は一つのチャネルですから、パートナー企業とまったく同じ扱いで、社内だからといって何か優遇するということは一切していません。また、パートナーと比べると当社のSI事業は小さいので、コンフリクトするということは現実にはほぼないです。むしろ、テクノベーションセンターが主導してHULFTなどの先進活用事例を当社がつくり、それをパートナーに横展開していただくモデルを増やすことが、HULFTのシェアをさらに上げていくために非常に重要なポイントになると考えています。
──HULFTを世界一にという目標は、いまも変わっていませんか。
もちろんです。中国はローカルベンダーとのパートナーシップのもと、ローカル企業向けのビジネスから始め、日系ベンダーも扱い始めてくれているところですし、ASEANはその逆で、日系ベンダー中心の展開からローカルベンダーもパートナーエコシステムに入ってきてくれています。北米は、現地で製品開発もしているし、まずはハイタッチで実績をつくって、エンドユーザーに利用価値を訴求しながら市場を広げている状況です。
──目標達成までのスケジュールは?
2025年までには世界一になりたいですね。その前段として、現在、グローバルでのシェアは8%ですが、20年までにこれを倍増させ、16%程度まで引き上げ、トップを狙う体制を整えたいと思っています。
既存のSI事業と〝つなぐ〟ビジネスのシナジーが想像以上に大きく、
新しいビジネス展開につなげることができるようになってきたんです。<“KEY PERSON”の愛用品>40年ぶりの運命の再会 昨年、運命の再会を果たしたアンティークの手巻き式腕時計。「高校入学時に、分不相応な贈り物として父親から同型の腕時計をもらったが、なくしてしまった」という事情があり、「モノにはこだわらない」内田さんも即決で購入した。

眼光紙背 ~取材を終えて~
キャリアのスタートは、コンピューターサービス株式会社(現SCSK)で、創業者である故大川功氏の薫陶を受けた。「最も影響を受けた経営者」だと言い切る。客先で自分よりも先に頭を下げ、「こいつの面倒をみてやってください」と言ってくれた姿はいまでも鮮明に覚えているという。「事業とは何か、仕事とは何か、家族とは何かとか、人生の基本的な哲学や考え方を教えてもらった」。
こうしたエピソードとは少し趣が異なるかもしれないが、経営者としての施策展開は非常にロジカルという印象だ。事業環境の変化に合わせ、事業部に対する評価指標も、売り上げではなく、「投下資本あたりの利益率」をコアに据えた。社長就任前の内田氏が主導してつくった中期経営計画も、2019年3月期の売上高250億円(16年3月期は300億円弱)というダウンサイジング型の計画。高収益の会社になることこそが、成長基調に転じるためには必須のステップなのだ。(霹)
プロフィール
内田和弘
(うちだ かずひろ)
1959年4月、埼玉県生まれ。83年3月、中央大学法学部卒業。同年4月、コンピューターサービス(現SCSK)入社。92年12月、CSI(現CSIソリューションズ)取締役に就任。95年6月、同社常務取締役、CSK(現SCSK)理事。2002年3月、JIEC取締役。07年6月、シマンテック執行役員。09年4月、同社常務執行役員。11年4月に、セゾン情報システムズに入社。HULFT事業部長(現任)、アプレッソ取締役、世存信息技術(上海)有限公司董事長(現任)、HULFT Pte LtdマネージングダイレクターCEO(現任)、常務取締役などを歴任し、16年4月に代表取締役社長、HULFT,Inc.Chairman。
会社紹介
1970年設立。クレディ・セゾンの持分法適用会社で、カードシステム事業、流通・ITソリューション事業、HULFT(ファイル転送ミドルウェア)事業が経営の三本柱。16年3月期の売上高(連結)は297億9279万円。社員数1172人(16年3月末現在)。