産業用マザーボードなどの組み込み系ハードウェアを提供してきたアドバンテックが、IoTの分野において頭角を現してきている。ソフトウェアプラットフォーム「WISE-PaaS」や自社のハードウェアとの連携が可能なAPIの提供などにより、さまざまなベンダーと組んでIoT関連の新しいソリューションを創造するという取り組みもその一つ。「IoT時代の核になる」と話すマイク小池社長に、今後の戦略について話を聞いた。
IoTの推進に必要な土台はできた
──2016年は、どのような年でしたか。
ワールドワイドでは1300~1400億円の売り上げでした。前年と比べると、10%弱の成長です。そのなかで、日本は33%の成長を達成しました。この成長率は、ワールドワイドのアドバンテックのなかでトップなんです。
私が社長に就任したのが12年で、それから5年が経過したのですが、当時と比べると売上規模は3倍程度に膨れ上がっています。社員数を含めた社内オペレーションは2倍に増えています。また、パートナーとのエコシステムが完成できたと確信しています。10年に、ワールドワイドで「インテリジェント・プラネットの実現」というビジョンを掲げ、IoTに向けて戦略転換を図ることに踏み出しました。日本も同様で、今まさに「IoTカンパニーになる」という宣言を完全に果たしたと実感しています。
──具体的には、どのようなことに取り組んだのですか。
さまざまなベンダーと協業することに力を入れました。昨年2月には、収集したデータをクラウドサービスで活用する当社のソフトウェアプラットフォーム「WISE-PaaS」をベースに、日本IBMのPaaS「IBM Bluemix」との連携を実現しました。これによって、「スマート・マニュファクチャリング」を切り口としたIoTソリューションを創造できる体制が整いました。また、昨年6月にはARM、ボッシュ、センシリオン、日本テキサス・インスツルメンツなどと提携して、センサ・プラットフォームのオープン規格「M2.COM」を発表しました。さらに、マイクロソフトから「マイクロソフト・グローバル・IoTバリュード・パートナー」の認定をワールドワイドで受け、国内ではEmbeddedの正規販売代理店とCSP(クラウドソリューションプロバイダ)の正規販売代理店として契約しました。
このようなパートナーシップは、非常に大きなものだと考えています。なぜなら、IoTを形成するセンサ、ハードウェア、ソフトウェア、そしてクラウドサービスまでを網羅するために、パートナーとエコシステムを構築したことになります。IoTでは、各社それぞれの強みを集結して新しいソリューションを創造することが重要となります。それを実現する土台が固まったということです。
──組織など、社内体制の強化も図ったのでしょうか。
組織のそれぞれが本社と直接一体になって、ワールドワイドと同様のビジネスが展開できる体制を、以前から敷いています。各組織に「セクタリーダー」という責任者を配置して、本社とコミュニケーションをとりながら日本市場にマッチした製品・サービスを提供していく。しかも、単にソリューションを提供するだけでなく、お客様が満足するものを提供する。私が指揮を執って、顧客満足度を向上させるためのトレーニングも徹底的に行っています。当社は、“外資系”ですから、日本が本社のベンダーと比べると、お客様や国内パートナーが信用度という点で懸念を抱くことがどうしても出てきます。ワールドワイドで共通でありながら、しかも日本に適した支援を行っていく。それが大切だと捉えています。
お客様やパートナーの信頼を得るという点では、自社ビルを購入しました。今年で設立から20周年を迎えましたし、本拠地をしっかりと構えて日本に根づいたビジネスをさらに手がけていくという想いを込めています。
伝統的なビジネスを進化させる
──売上増や成長率が順調ということですが、そのなかで課題はあるのですか。
最も大きな課題は、IoT時代へと舵を切るにあたって、組み込み関連事業などの伝統的なビジネスを、どう続けていくかということです。ハードウェアだけでなくソフトウェアを組み合わせたソリューションが必要とされていますので、ハードウェアの提供がメインの組み込み関連事業も順応していかなければなりません。そこで、インテリジェント・プラネットの実現というコンセプトのもと、組み込み関連事業で、昨年9月に「ソリューション・セールス・グループ」を立ち上げました。組み込み関連事業の観点から、IoT時代に即したソリューションをいかに創造できるかを踏まえたものです。そのため、ソリューション・セールス・グループにはソフトウェアやクラウドサービスのノウハウをもった人材を確保しました。
また、パートナーであるSIerが得意の製品・サービスと、当社の製品を組み合わせてソリューションを提供するケースが多くなっていますので、「マーケット・プレイス」という概念で当社が核となり、さまざまなものがつながる環境を整えています。具体的には、当社の製品と互換性を高めるためのAPIを提供しているほか、WISE-PaaSも提供してきたのですが、さらに各業界に適したソリューションをパートナーが提供できる仕組みも構築していきたいと考えています。
──IoT時代においても、伝統的な組み込み関連事業を残す、と。
「進化させる」といったほうがふさわしいでしょう。市場では、ハードウェアをできる限りオープンにしていきたいという考えに変わっています。これはSIerがソリューションを提供していくにあたって、扱いやすさをハードウェアに求めているからです。そういった意味では、ハードウェア側からコラボレーションしやすい環境を整えなければなりません。そのために、APIやマーケット・プレイスの提供を強化しているということなんです。
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