メガベンダーよりも戦略上は優位
──そうすると、Yellowfinのアイデンティティというのは……。
デスクトップBIのような柔軟性と使いやすさをもちつつも、エンタープライズBIのデータガバナンス、セキュリティの要求をクリアしているというバランスですね。結果的に、LOB(基幹業務)のビジネスユーザーにも、データアナリストやシステム部門のパワーユーザーにも、両方に大きなメリットを提供できるBIツールになっています。
──なぜ、そうした戦略を採っているのでしょうか。
直接的なきっかけは、前職で、銀行の企画職に従事していたときに、BIツールの操作が複雑で難し過ぎ、ビジネスユーザーには使いづらいという課題に直面したからです。知識のある人しか使えないBIにどんな意味があるのか、大きな疑問でした。一方で、RDB、ウェブAPI、JSON、スプレッドシート、各種DWHなど、エンタープライズ系のデータソースにはすべてつながっていなければBIを活用して得られる成果も限定的になってしまうわけで、Yellowfinはそこにも気を配ってきました。真にビジネスに貢献できるBIを追求した結果、いまのようなかたちに自然となっていったというイメージですね。Yellowfinの究極の目標である「地球上でもっともすぐれたBIプラットフォーム」も、いまのわれわれのスタイルの延長上にあると思いますよ。
──メガベンダーのBIは古いという指摘がありましたが、彼らもBIを自社のポートフォリオのなかで重要製品に位置づけ、R&Dを強化している印象があります。ERPやCRMなど、自社の業務アプリケーションとのネイティブな連携を強みとして打ち出すケースも多いですよね。脅威だとは感じませんか。
メガベンダーにとって、本当にそれが強みになっているのでしょうか。BIが自社のソリューションとネイティブにつながるといっても、ユーザーがSAP製品だけを使っている、オラクル製品だけを使っている、マイクロソフト製品だけを使っている、なんていうことはありえませんよね。あらゆる企業が、さまざまなベンダーのソリューションを組み合わせて使っています。Yellowfinは、SAP製品だろうが、オラクル製品だろうが、マイクロソフト製品だろうが、ほかのシステムだろうが、クラウドだろうが、自由に接続できます。むしろ、特定ベンダーのポートフォリオに組み込まれていないことで、全方位のデータ活用がしやすくなると思っています。われわれの戦略のほうが、ポテンシャルは大きいですよ。
日本市場でのビジネスは成功している
──Yellowfinは現在のところプライベートカンパニーですが、資本政策としても、独立性を重視している印象です。
そうですね。Yellowfinは現在のところ外部の資本を入れていない会社ですから、柔軟なマネジメントが可能で、これは非常に大きなアドバンテージだと思っています。投資家ではなく、お客様や市場をみながら、目先の利益だけにとらわれることなく戦略を考えることができますから。
──さらに成長を加速させるためには、何らかのかたちで外部から資金調達する必要性を感じませんか。
まったく何も考えていないというわけではないですが、現段階では具体的なプランはありません。いまのビジネスをいかに成長させるかに集中しています。
もちろん、一般論としては、株式公開する、事業を売却するという選択肢はあるわけで、いずれも可能性がまったくないとはいえませんが、プライベートカンパニーで居続けるというオプションもあります。例えばSASはプライベートカンパニーですが、増収を続け、いまや年間売上高は32億ドルという規模です。その時々で、会社がもっとも成長できる方向を選択するということに尽きます。
──ラビーさんは日本法人の代表も務めておられます。日本法人ができて2年半ほど経過しましたが、日本市場での成果はどう評価されていますか。
日本法人設立時と比べると、ビジネスの規模は3倍になっています。また、もともと買い切り型のライセンス販売が主体でしたが、サブスクリプションの割合が増えていて、ストック型の安定した収益基盤ができつつあります。非常に成功しているといっていいと思います。
──日本市場でのさらなる成長に向けた取り組みとしては、どんなことが必要になるでしょうか。
日本市場に限った話ではないのですが、ブランディングというか、市場における存在感を高めるためのマーケティング活動は非常に重要だと考えています。
もう一点は、パートナーエコシステムの強化ですね。Yellowfinのコンサルティングパートナーとして活躍していただいているNTTテクノクロスのように、当社製品を深く理解していただき、ユーザーに成果を上げてもらうための提案ができるパートナーを増やしていくことが、われわれの成長に直結します。
デスクトップBIのような柔軟性と使いやすさをもちつつも、
エンタープライズBIのデータガバナンス、
セキュリティの要求をクリアしている。
<“KEY PERSON”の愛用品>何度なくしても同じものを買う
ポルシェデザインのボールペンを10年以上愛用している。コンパクトで壊れにくい点がお気に入り。実は現在のものは3代目。コンパクトさゆえに何度か紛失しているが、手放せない一品のため、同じ製品を繰り返し購入している。

眼光紙背 ~取材を終えて~
プライベートでは2児の父で、社内では、アウトドアと音楽をこよなく愛する親しみやすい人柄で知られているという。まさにそんなイメージどおりのラフな装いで取材の場に現れた。しかし、いざ取材が始まると、一つひとつの質問に、ゆっくり、ていねいな口調で答えてくれたのが印象的だった。独立系ベンダーとして、外部の資本を入れることなく、ユーザーと向き合ってビジネスの方向性を定めてきたからこそ、今日のYellowfinの成長があるという強い自負が、発言の端々に感じられた。
日本法人であるYellowfin Japanのスタッフについては、「非常にパッションがあって、Yellowfinの非常に深い部分をよく勉強しているし、市場で勝とうという欲をもっているすぐれたチーム。組織自体がどんどん大きくなっていて、東京だけでなく、大阪にもオフィスを開設した。チームビルディングもよくやってくれている」と評価する。Yellowfin Japan独自のカルチャーを確立し、グローバルでの成長をけん引してほしいと期待を寄せる。(霹)
プロフィール
グレン・ラビー
(Glen Rabie)
1971年、ナミビア生まれ。National Australia BankのIT コンサルタントとして働いていた時に、BIツールの導入に莫大な費用がかかる一方で、使いづらくエンドユーザーが拡大しない状況に疑問を感じ、誰もが簡単に使えるBIツールを企業に提供すべく、2003年にオーストラリアのメルボルンでYellowfinを創業した。
会社紹介
2003年にオーストラリア・メルボルンで創業。BIツール「Yellowfin」の専業ベンダー。現在では北米、ヨーロッパ、日本をはじめ、世界70か国以上で事業を展開。同社によれば、「数万社の顧客と200万人以上のエンドユーザーを抱えている」とのこと。グローバルで従業員数は100人以上、年率40%ペースで成長を続けているという。14年10月に日本法人であるYellowfin Japanを設立。ラビーCEOが日本法人の代表も務める。