アンチウイルスのソフトウェアで知られるマカフィーは今年4月、半導体大手のインテルから独立し、セキュリティ専業のベンダーとして再スタートを切った。今後は、独自の戦略で会社としての成長ビジョンを描く。2016年5月に就任した山野修社長は、セキュリティ人材の不足や働き方改革といった時代の要請に応えながらセキュリティ業界の「オープン化」を主導し、業界全体の変革を促す考えを示している。
これからは独自の判断で動く
──今年4月、インテルから独立しました。まずは、その背景について教えてください。
マカフィーとしては、インテル時代に多くのPCベンダーやサーバーベンダー、IoTデバイスのベンダーとの関係が深まったと思っています。インテルのなかでみても、成長率も利益も高いディビジョンではありました。
ただ、われわれはセキュリティソフトのビジネスであり、インテルは半導体が主体のビジネスですので、文化が異なります。インテルにとってみても、ある程度目的を達成できたということと、よりIoTやAIに注力していくために、株主として残したままスピンオフさせたほうがお互いに自由度が高まるという判断があったということでしょう。インテルは今でも、マカフィーの49%の株をもつ大株主として協業関係を保っています。インテルは大きな会社ですから、マカフィーとしてはより小さく、かつセキュリティに注力できることで、よりフレキシブルになると期待しています。
──最近の他のセキュリティベンダーの動きをみていると、新しい技術の獲得などを目的にM&Aを積極的に行っています。マカフィーはインテルグループにいたこともあってか、そのあたりの動きがあまり目立たない印象でした。
そこはやはりインテルの投資計画に委ねなくてはならなかったので、われわれ独自で判断ができなかったんですね。けれども分社化したことで、今後はマカフィーだけの判断でM&Aをすることができるようになり、独自の判断で新しい技術の取得が可能になりました。これが、当社にとって分社化による一番大きいメリットだと思っています。
「オープン化」の概念が欠けている
──いま不足していると感じている部分は何でしょうか。
あえていうと、ポートフォリオは充実しています。アンチウイルスは自社開発を通して機械学習や振る舞い検知でマルウェアを判断する機能を搭載していますし、IPSは国内でデファクトの地位をもっている。SIEMやサンドボックスも利用が増えています。
これまで、これらのマカフィーの製品をつなげるところはかなり順調にやってきましたが、今は他のセキュリティベンダーのセキュリティ製品をつなげるということが重要だと考えています。そこで、「OpenDXL(Data Exchange Layer)」と言いますが、社内のプロトコルだった「McAfee DXL」をオープン化し、他社のセキュリティ製品と接続できるようにしました。
──その意図はどこにあるのでしょうか。
セキュリティ業界全体で、オープン化の概念が不足していたと思っているからです。今までは、どの会社もそれぞれに製品を出して、それだけで独立しようとしていたわけですが、ネットワークがオープン化され、サーバーもオープン化されていくなかで、セキュリティだけがオープン化されていなかった。それがこの業界最大の問題で、どのお客様も何十種類とセキュリティ製品を導入し、ファイアウォールだとかIPSだとかアンチウイルスだとか、それぞれでセグメント化されているんですよね。そして、おそらくどれもつながっていない。結局、それぞれを別々に管理しなければならないというのがお客様の実態だった。
われわれセキュリティベンダーは、製品ごとでは競合しても、ある意味で垣根を越えて、協業していかなくてはいけないと思います。それをしようというのがマカフィーです。
──確かに、オープン化して製品同士を連携させるというのはユーザーにとって非常にメリットのあることだと思いますが、御社のように幅広い製品ポートフォリオをもつ企業からすれば、ユーザーに自社の製品で揃えて利用してもらうことが難しくなるのではないでしょうか。
結局は、誰が先にやるかということです。以前からセキュリティベンダーは「スイート製品」を提供しているため、一揃いでご利用されているユーザー様も多いですが、それだけで守り切るのは無理で、すべてで強いベンダーはどこにもいないですよね。
当社としてはエンドポイントやIPSは強いですが、一方で、ファイアウォールやメールセキュリティは手がけていない。そうしたやっていないところに関しては、できる限り協業していこうというのも一つの戦略です。
──OpenDXLの取り組みの現状は?
実は以前から「セキュリティイノベーションアライアンス(SIA)」というパートナープログラムがありまして、世界中で135社以上の企業に加盟いただいており、ある程度はセキュリティベンダーと協業させていただいていました。ただ、そのアライアンスにも細かい制約がいろいろとあったので、昨年11月にオープン化し、APIも公開して、今では多くのセキュリティベンダーやネットワークベンダーにそれに対応したソフトウェア開発をしていただいている状況です。今後、いろいろな会社から新製品の発表が出てくるでしょう。
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