今年1月、富士通が旧ニフティの事業再編を発表し、4月1日付で「ニフティクラウド」を中心とするエンタープライズ向け事業を担う新たな子会社として富士通クラウドテクノロジーズ(FJCT)が発足した。舵取りを託された愛川義政代表取締役社長は、富士通九州システムズ出身。国産パブリッククラウドの雄として存在感を発揮してきたニフティクラウドをどこに導くのか。
新規事業開拓の突破力が評価された
──富士通九州システムズのプロパー社員として長年活躍されてきた、とうかがっています。少し異例の人事なのかなという印象も受けました。
当社の社長になれといわれたときは、まさに青天の霹靂という感じでしたね。富士通九州システムズの経営に約8年携わってきて、年齢的にも富士通のグループ会社の社長をやるようなタイミングではないと思っていましたから。これまで仕事一筋で家庭を顧みなかったところがあったので(笑)、妻や孫と過ごす時間を増やしたり、ゴルフをしたりしながら、九州をベースに少しのんびりして、あと数年は富士通グループの仕事の側面支援をしようと考えていた矢先でした。
──旧ニフティやクラウド全般と親和性の高い仕事をされてきたということなのでしょうか。
富士通九州システムズと旧ニフティは開発に関して長年協業関係にあって、私個人としてもいろいろなフォローやアドバイスはしていましたし、旧ニフティのことやクラウドのことはよく知っていたといっていいと思います。
それから、いまの富士通の「食・農クラウドAkisai」に連なるさまざまな個別のサービスを立ち上げてきた経験もあります。8年以上前に、Akisaiの有力サービスの一つで、いまでいうIoTソリューションの一種である「牛歩SaaS」をやり始めて、国内外で実証実験や案件獲得を進めてきたり、富士通九州システムズでも富士通本体でも、かなりの数の新規事業立ち上げに携わってきました。これは富士通社内で比較的認知してもらっていたかもしれません。
さらにこうした取り組みのなかで、富士通の「S5」、マイクロソフトの「Azure」、Azureベースの富士通「A5」など、複数のクラウドサービスをごく初期の段階からインフラとして使ってきました。現在の富士通のクラウド戦略の核になっている「K5」の開発についても、富士通九州システムズのメンバーが多数参加しています。ですので、富士通、非富士通を問わず、さまざまなクラウドサービスに昔から深くかかわりながら、チャレンジャーとして新しい事業をニッチなところで開拓してきたと自負しています。そんなキャリアがあったこと、そして、新しいもの好きで何かとこだわるという私自身の性格を踏まえて、お鉢が回ってきたということだと思っています。
──富士通九州システムズと旧ニフティの文化には少し近いものがあるということですか。
そうですね。富士通九州システムズは、「グローバルニッチNo.1」を目指していて、私自身も30弱の国でビジネスをしてきましたが、富士通本体のルートに頼らず、独自に開拓したものが多いです。“ミニ富士通”を目指すのではないという意味で、FJCTと共通するものはあると思います。ニフティクラウドを富士通本体に吸収するという選択もできたわけですが、なぜそうしなかったのか。やはり、小さい組織、常に新しいことにチャレンジしてきた組織ならではのスピード感を失ってはいけないということでしょう。
K5との融合を進め、下期には新サービス
──とはいえ、FJCTの発足は、富士通の従来のクラウドサービスとニフティクラウドの距離をより近づけていく施策の一環にみえます。
ニフティクラウドが、富士通のクラウド戦略のなかでより中心的な役割を果たしていくことになるのは間違いありません。富士通のこれまでのクラウドサービスは、プライベートクラウドに近いところで大規模なシステムを動かすために使われるケースが多かったわけですが、ニフティクラウドはマルチテナントで高いコスト競争力をもち、中小企業から大企業までスケーラブルに利用できるパブリッククラウドですから、富士通のクラウドサービスのポートフォリオを補完的に強化できるといえます。
──とはいえ、K5もパブリッククラウドサービスです。ニフティクラウドとの棲み分け、あるいはブランドの統合などについては、どのように考えておられるのでしょうか。
エンタープライズ向け事業では、当社の製品/サービスを富士通のクラウドとして展開するというのは明確に決まっていて、商品化の準備を進めているところです。下期あたりには、K5の中核サービスとして、新しい商品名のサービスをローンチすることになるでしょう。
現状のクラウドへのニーズとして、オンプレミスのシステムをクラウド環境にリフト&シフトで移行するというのは根強いものがありますが、K5の現サービスと比べると、やはりニフティクラウドには一日の長があるというか、移行も容易ですし、コストの負荷も少なく、事例も豊富です。富士通側のK5の部隊とも一緒になってガンガン議論していて、ある程度棲み分けの整理は終わっています。
──富士通本体とすでに一緒に動いている状況なんですね。
旧ニフティも富士通の100%子会社ではありましたが、やはりいままではお互い違う会社としてビジネスをしてきたところがあるんです。FJCTが発足して私が取り掛かった最初の大きな仕事は、その壁を取り払うことでした。この数か月間で、ある程度成果を出せたのではないかと思います。富士通のマーケティングチームにも技術陣にもFJCTの力を認めていただいて、一緒にK5を成長させていこうという雰囲気ができてきています。
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