PC事業が中国に再進出
──コア事業でもあるPC事業が、3期連続最終黒字、2期連続営業黒字を達成しました。これまでを振り返ってみた感想を教えてください。
ソニーという大きな会社から独立して、PCという厳しい業界のなかでこの3年間しのいできました。法人向けPC事業はきちんと数字をつくり、収支はそこそこになってきましたが、まだ不十分だと思っています。ここからもう一つ山を登らないといけません。
例えば、山は登り始めはなだらかな丘陵ですが、少し上ると傾斜が険しくなります。事業も同じで、3年ぐらいすると目標が高くなり、険しくなる。さらに世の中の天候はすぐに変わります。雨が降ったり雪が降ったり、いろいろ起こります。それを見越して今から仕込んでいきます。ただ、焦って山を登るのはよくない。登山では高度順化という言葉があります。一気に登りきるのではなく、一度止まって高度に体を慣れさせないと頂上まで登りきれない。今、PC事業は次の山を越えるため、きちっと仕切り直しをしているところです。
VAIOの真価が問われるのはもう少し先の話になるでしょうね。それまでもっとマーケットシェアを取り、みなさんにVAIOを使ってもらえるようにしていきます。
──他社との差異化はどのように出していきますか。
よく外資系ベンダーと戦えるのか、という質問をいただきます。VAIOは同じリングで戦うつもりはありません。時代の変化に対応しながら、VAIOの特技、特異性を生かせる場所で戦っていきます。
例えば、レストランのチェーン店はたくさんありますが、個人経営の料理店もあります。その店が生き残っているのは、料理人の腕がいいから。食材を自社で育てるレストランもあるかもしれませんが、VAIOはいい食材を集めて、いい料理をつくって、いい雰囲気で食べていただく。幸い、安曇野工場にはソニーのVAIO、AIBOを開発してきたノウハウが蓄積されています。腕のいい料理人がいるわけです。このVAIOのものづくりで十分対応できると考えています。
──PC事業の中国再進出がありますが、ソニー時代の中国展開との違いを教えてください。
ソニー時代は直営店で販売していました。しかし、以前のような大量生産、大量販売はしません。スタイルを変えていきます。中国のECサイト「JD.COM」のノートPC担当者に話を聞いたところ、中国の若い人はPCやスマートフォンを使ってECサイトで物品を購入するそうです。JD.COMは中国の人口の99%をカバーする物流インフラをもっていて、24時間体制で配送を行っています。JD.COMを販売パートナーにすることで、VAIOを中国全土で広げていきたいと考えています。また、中国には米国からわざわざVAIOを購入してくださるコアなファンがいらっしゃるそうです。その期待にぜひ応えていきたいです。
PC事業は次の山を越える
今は仕切り直しをしているところ
<“KEY PERSON”の愛用品>長時間移動のおともに」
長野と東京の片道2時間半以上の長時間移動のほか、海外出張も多い吉田社長の愛用品は携帯用の靴べら。新幹線や飛行機の中では靴を脱ぐことが多く、鞄に入れて持ち歩いている。足にやさしい布地を貼ったものがお気に入りだ。


眼光紙背 ~取材を終えて~
ものづくり、なかでもPCづくりに対しては思い入れのある吉田社長。趣味は自作PCで、組み立てたPCの台数は12台に上る。
自作PCは、基盤とメモリ、ハードディスク、きょう体などの複数のパーツの組み合わせによって性能が変わる。さらに、基盤一つとってもいろいろなメーカー、種類があり、予算や用途に応じたパーツ選びも醍醐味の一つだ。
「若い頃はお金がないから安いパーツを集めて、それでも性能を出せるよう工夫した。組み立てはうまくいかない時もあるので、うまく組みあがった時は本当に楽しい」と話す。技術者でなくてもこだわりのものづくりができる。そうしたおもしろさにのめり込んでいったという。
「今、若い人たちはPC離れが進んでいるが、ぜひ自分のPCをつくってもらいたい」と語る吉田社長。VAIOでは長野県の小学生を中心に、安曇野工場の見学ツアーを実施している。来年には、累計来場者数が1万人を超えそうだ。VAIOを中心に、長野県にものづくりの波が高まっている。(海)
プロフィール
吉田秀俊
(よしだ ひでとし)
1956年、東京都生まれ。80年に上智大学外国語学部ロシア語科卒業。同年に日本ビクター(現:JVCケンウッド)入社し、ビデオ事業部輸出課に。2008年、同社取締役社長を務めた後、11年より液晶ディスプレイ関連の専業メーカーであるオプトレックス取締役副社長執行役員兼営業本部長、電子部品メーカーのエルナー顧問、同社代表取締役社長執行役員を経て、6月にVAIOの代表取締役社長に就任。
会社紹介
ソニーからPC事業を継承し、2014年7月1日に設立。長野県安曇野市に本社、製造拠点を置き、PC事業、受託事業(EMS事業)における製品企画から設計、開発、製造および販売と、それに付随するサービスを一貫して行う。