レノボグループでx86サーバーやストレージなど、エンタープライズ事業を国内で展開しているレノボ・エンタープライズ・ソリューションズ。レノボグループがエンタープライズ事業を強化していく方針を打ち出し、それに合わせて、6月28日にロバート・スチーブンソン氏を社長につけた。新社長が進める新たな事業戦略について聞いた。
日本のIT市場の将来性にひかれて
──日本在住期間が35年になりますが、これまでの国内での経歴を教えてください。
大学を卒業してからほぼずっと、日本で働いています。しかも最初の十数年間はIT企業ではなく、製造メーカーに勤務していました。ITの業界に入ったきっかけは経営コンサルタントの仕事ですね。父がコンサルタントをしていた関係で、私も5年間だけですが経験しました。コンサルタントというのは大変興味深い仕事で、依頼されるプロジェクトというのは、その会社にとって十年に一度、数十年に一度の重要なプロジェクトです。ここでお客様としてIT企業と出会い、日本のITマーケットは今後伸びていくだろうと感じました。そこで人に紹介してもらい、Documentumを立ち上げたのがIT業界に入ったきっかけです。その後は、アプリケーション、インフラ、セキュリティなどいろいろやってきました。
──レノボ本社からの出向ではなく、現地での採用になるんですね。
そうです。レノボ本社が金太郎あめのように、本社のやり方をそのまま日本で展開するなら、私のような経歴の人間は採用しないでしょう。でも、そうではなかった。日本語を話せる米国人、本社で勤めた経験のない人間が必要だったわけです。これは私の感想なのですが、レノボはほかの会社と違って、ヨーロッパの名門企業のような社風を感じます。それは国籍を問わず、実力のある人を適材適所に配置するところです。
もう一つ、レノボグループのトップは、日本に対してほかの外資系ベンダー以上に日本のポテンシャルやマーケットの可能性を理解してくれています。買収した日本の事業の合弁会社をわざわざつくるなんて普通しませんよ。日本の企業とwin-winの関係を築く、尊重してくれているからだと感じます。こうした点が社員を通じてパートナー様、お客様に伝わっていると思います。
HPCの領域で革命を起こす
──就任して、最初に着手したことは何ですか。
就任前からIBMのサーバービジネスのマーケットシェアがシュリンクしていました。それはGo-To-Marketがうまくいっていなかったのが要因です。それを正すことに着手しました。あたりまえのことですが、パートナー様と一緒に営業活動をしていくため、営業やエンジニアのスキルアップに注力しました。その結果、第1四半期の売り上げは1年半ぶりに最高記録を達成することができました。生々しい話ですが、社員に対してちゃんとしたボーナスを出すことができました。次は7月の事業説明会でもお話した通り、スーパーコンピュータ(HPC)の分野でアクセルを踏んでいきます。
──7月の会見ではHPCやコンバージドインフラストラクチャ(CI)/ハイパーコンバージドインフラストラクチャ(HCI)、仮想化サーバーの売上構成比を引き上げる方針を明らかにされました。HPCに注力する理由を教えてください。
これまでは、大学や大きな研究機関など、ある程度予算をもっているところでしかHPCは導入できませんでした。しかし今、HPCはいろいろなところで求められています。例えば天気予報。異常気象や台風などを毎日ニュースで伝えていますが、ピンポイントの予報や詳細なグラフィックを実現しているのがまさにHPCの技術です。日本ですと地震情報もそうですね。発生した地震の危険性などを判断しています。また、AIの進化をスピードアップさせているのもHPCです。ありとあらゆるところにHPCの需要が生まれています。
HPCの裾野を広げるためにレノボができること。それが最先端で、最高速で、しかも一番コストパフォーマンスのよいHPCを提供することです。コストに関しては、グローバルで展開するレノボだからこそ、できることです。
──グローバルで展開するベンダーはほかにもありますが、そのなかでレノボの優位性を教えてください。
中国市場をしっかり握ることができている点です。グローバルで台数を一番もっている市場が中国です。どこの市場を握っているというだけではなく、トータルのボリュームをみないといけません。今、レノボの製品は、サーバーも、PCもスマートフォンも含めた数字ですが、世界で1秒間に3台売れています。これだけ販売しているということは世界最大級の調達力をもっているということです。
──性能面の優位性はいかがでしょうか。
IBMのx86サーバーの品質は極めて安定しています。それを示しているのがダウンタイムの少なさです。ハードウェアの故障によるダウンタイムはどうしても発生してしまいます。ダウンタイムの平均は10%ぐらいといわれています。ITICが、全世界750人のCIOを対象に実施した調査によると、HP ProLiantが10%、Dell PowerEdgeが7%、Cisco UCS、FUJITSU Server PRIMERGYが2%でしたが、レノボのSystem xは1%と最も低かったのです。4年連続1位を取っており、今後も継続できるよう製品を磨き上げていきます。ぜひ、日本のお客様にこの点を評価していただけたらと思います。
こうした取り組みの結果として、世界のスパコンランキングTOP500のなかでそろそろ100位にランクインしそうです。3年前はゼロスタートだったのに、伸び率が高く、ここまできました。
性能、コストパフォーマンス、信頼性でHPC市場の裾野をレノボが広げていきます。レノボが革命を起こしている、といってもいいのではないでしょうか。
──もう一つの柱であるHCIですが、他社はソフトウェア・デファインド・ストレージ(SDS)ベンダーを買収するなどして強化しています。どのように展開する計画でしょうか。
レノボは他社のように垂直統合をしていません。ソフトウェア・ディファインドの領域ではパートナー様との戦略的提携でやっていけると考えています。同一ベンダーの製品で組み合わせるのではなく、各分野で最良のハードウェアやソフトウェアを組み合わせるベスト・オブ・ブリードという方針です。そう考えたとき、企業を買収して垂直統合するのではなく、得意の技を磨き上げていく、つまりx86サーバーを磨き上げていくことが重要だと考えています。
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