PC事業でも富士通のDNAは死なず
──PC事業は連結を外れ、富士通クライアントコンピューティング(FCCL)はレノボが過半数を出資する合弁企業になります。ライバルのNECと同じ傘の下でPC事業を展開することにもなりますが、この体制下で、富士通ブランドを残し続けることはできるでしょうか。
レノボとは相当な時間をかけてていねいに議論をしてきたんですが、富士通のPC事業には競争力を生み出す源泉があるということを理解していただいたと思っています。そこは大事にしていただけると思うし、そこにグローバルでの調達力など、レノボの強みが加わることで得られるシナジーは大きいと確信しています。
富士通のブランドを残す以上、われわれのインテグレーションのなかでも責任をもってお客様に提供していきますし、その立場で、PCのR&Dに対する要望にも対応し続けます。株主でもあり続けますしね。FCCLに行ったメンバーも、富士通のDNAをもって、従来の生産ラインのよさも維持してもらうようにレノボとは話しています。富士通ブランドのPC事業は、富士通本体から独立して、もっと広い視野で市場
をみて、さらにいいものを生み出していけると私は期待していますよ。
──国産メーカーにこだわるユーザーも多いのでは。
それも一つのご意見として承知していますが、実際にいいものを提供するという実績を重ねていくことで払拭できると思っています。
──過去、PC事業をレノボに売却したIBMは、x86サーバーも結局は売却しました。富士通も同じ道をたどる可能性はどうでしょう。
それについては何も決めていることはありません。とにかく市場にいろいろな変化があることは認識していますから、それを踏まえて、まずは競争力強化に向けた社内の努力を続けていきます。
マーケットは常に変化していますから、われわれが
プラットフォーマーになれるチャンスは十分にあります
<“KEY PERSON”の愛用品>常にペンを動かす
5年ほど愛用しているモンブランの万年筆が手放せない。最も細いEFのペン先を使用。「会議や打ち合わせのときなどは、常にペンを動かしている。そうすると、頭のなかを整理できる」。文字だけでなくイラストでアイデアを記録することも多い。
眼光紙背 ~取材を終えて~
これまで、田中社長就任後の富士通の施策を取材したり、田中社長に直接インタビューすると、少なくともクラウドプラットフォーマーとしてメガクラウドベンダーと勝負しようとは考えておらず、まずは強みのあるSIの利益率を高めることに集中しようとしているという印象をもつことが多かった。しかし、今年は「その先」の話に初めて言及した。
SIへの注力と高利益率構造への転換は、ゴールではなく、次世代のプラットフォーマーとして、エンタープライズIT市場における地位を築く手段であることを明確に宣言したかたちだ。15年10月に発表した経営方針で打ち出した営業利益率10%、海外売上比率50%という数値目標にはまだ到達していないが、田中社長がいうところの「正しい道筋が着実にできている」という手ごたえを得ているからこその変化なのだろう。(霹)
プロフィール
田中達也
(たなか たつや)
1956年生まれ。東京理科大学理工学部卒業後、1980年4月に富士通に入社。国内営業部門で大手鉄鋼、石油、化学分野などを担当。2000年4月、産業営業本部産業第二統括営業部プロセス産業第二営業部長。03年4月より、富士通(上海)有限公司に。09年12月、富士通産業ビジネス本部長代理(グローバルビジネス担当)就任。執行役員兼産業ビジネス本部長、執行役員常務兼Asiaリージョン長を経て、15年6月より現職。
会社紹介
日本を代表する総合ICTベンダー。2016年度(2017年3月期)の業績は、売上高が前年度比4.8%減の4兆5096億円、営業利益は同6.8%増の1288億円。事業売却などにより近年の売上高は縮小傾向だが、収益体質の改善は比較的順調に進んでいる。17年11月には、パソコン事業を担う富士通クライアントコンピューティングに中国レノボ・グループが51%出資し、18年4月~6月をめどに富士通ブランドのPCをレノボ傘下で展開することを正式に発表した。