ビジネスの転換は成長へのチャンス
──中長期の視点をもつことで成長戦略を捉えているわけですね。
これは私の持論なのですが、情報処理の本質って、実は大昔から変わっていないのです。世の中で起きている森羅万象がデータだとしたら、それを体系立ててまとめたのがインフォメーション。このインフォメーションをもとに何らかの判断を下すのがインテリジェンス(知性)なのです。
アナログ時代は紙とペンで記録された情報をもとに人間が何らかの判断を下していました。わかりやすくいえば、桶狭間の戦いで、今川義元の軍勢のデータを織田信長の部下たちが取りまとめ、何らかのインフォメーションにして信長に伝える。信長はこれに自身の経験や哲学、執念を加味して急襲するタイミングを決断したわけです。このデータ、インフォメーション、インテリジェンスの三階層の構造は、今もまったく同じです。データやインフォメーションがデジタル化され、インテリジェンスの部分もAI(人工知能)が担うようになってきただけです。
──そう考えると、昨今のAIの進化は、最後に残っていた人間の判断の部分をデジタル化する画期的な位置づけとなりますね。
今は人間を支援する位置づけですが、量子コンピュータ上で、人間と同等か、凌駕するようなAIがいずれ登場するでしょう。NTTの研究所でも量子コンピュータの研究を意欲的に進めており、近い将来に実用化されることでコンピューティングパワーは指数関数的に伸びる。企業経営も再び大きなトランスフォーメーションが起こると、私は考えています。
──NTTデータのR&Dでは、どんな領域に投資をしておられますか。
当社はSIerですので、顧客により近いところをR&Dの対象にしています。国内の身近な例を挙げますと、群馬大学と産学連携して、路線バスの自動運転の実証実験に参加しています。ほかには、銀行や保険会社、荷主、海運会社、通関業者、監督官庁などと、貿易金融をブロックチェーン技術で実現する実証実験も始めています。いずれも、ユーザーに近いところで、業務に密接に関連していることが多いですね。
自動運転は、これまで人間が判断していた部分をAIが支援したり、取って代わることになります。ITが人の仕事を代替することで、仕事を変えなければならない人も出てくる可能性があります。国内の就労人口が減少していくなかでも国際的な競争力を保つには、こうした変化をバネにしなければなりません。全体的にみればITによってプラスの方向へもって行けるし、実際にそうなるよう、当社をはじめ情報サービス業界の果たすべき役割は、これまで以上に大きくなっていきます。世の中が大きくトランスフォーメーションしているいまだからこそ、成長へのチャンスも大きいと確信しています。
設立30年の若い当社が成長しない理由はどこにもありません。
むしろ当社が・成長の遺伝子・をもっている限り、
これからもずっと成長を目指します。
<“KEY PERSON”の愛用品>英国で買ったカフスに込める思い
ロールス・ロイス創業の地、英マンチェスターで手に入れたカフス。同社は航空機エンジンで時間ごとの推力に課金する手法を率先して採り入れており、「モノからサービスへ転換する手法を心にとどめる」意味も、このカフスにはあると話す。
眼光紙背 ~取材を終えて~
岩本社長は、「ITはエクスポネンシャル(指数関数的)に進化する」と話す。これがITビジネスの成長の原動力になっている。人も同じように変わらなければ成長できない。「変わることはしんどいこと」というが、変わったからこそ日本のSIerで初の2兆円超の達成を間近に控えるまで成長できた。
NTTデータがグローバルへ舵を切ったのは2005年。当時は「国内市場で大きく成長するのは難しいのではないかとの危機感が背中を押した」と振り返る。以来、積極的な海外M&A戦略を展開し、18年度には海外売上比率50%の達成を射程内に収める。
12年前は部長クラスだった人材が、今は経営幹部に就く。海外社員比率は7割近くに達する。伸びないと懸念していた国内市場も、国内幹部の意識改革とグローバルの仲間が加わったことで、むしろ成長市場へと変わった。変化を乗り越えてこそ成長を手にできる。(寶)
プロフィール
岩本敏男
(いわもと としお)
1953年、長野県生まれ。76年、東京大学工学部卒業。同年、日本電信電話公社入社。85年、データ通信本部第二データ部調査員。91年、NTTデータ通信(現NTTデータ)金融システム事業本部担当部長。2004年、取締役決済ソリューション事業本部長。07年、取締役常務執行役員金融ビジネス事業本部長。09年、代表取締役副社長執行役員パブリック&フィナンシャルカンパニー長。12年6月、代表取締役社長。
会社紹介
NTTデータの今年度(2018年3月期)の連結売上高は前年度比18.9%増の2兆600億円、営業利益は同2.5%増の1200億円を見込む。国際会計基準への対応で一部海外法人の決算が12か月を超えることから実力ベースでは1兆9600~1兆9700億円の見込みという。19年3月期は、名実ともに2兆円超えの売り上げを目指す。