思っていることを言葉にする大切さ
──CACの強みとする金融と製薬は、規制業種ということもあり、一般産業に比べて商談の足が長くなる。新しい技術の導入にも時間がかかりますね。
規制業種であるか否か、当社にとって既存顧客であるか、新規顧客であるかは、デジタルビジネスを推進するうえであまり意味をなしません。実際、ブロックチェーンなど新技術に着目する金融業の顧客は多い。
つまり、当社が長年にわたって基幹業務システムの開発を請け負ってきた優良顧客でも、当社のデジタルビジネスの提案に魅力がなければ他社に発注する可能性はあるでしょう。その逆で、当社がこれまでおつき合いがなかった会社から、デジタルビジネスの受注を獲得することも可能だということです。デジタルを採り入れて新しいビジネスを興すのに業種・業態は関係ありませんからね。
──なかなかアグレッシブですね。西森社長ご自身の経験に照らし合わせて、どうしたら顧客の心をしっかりとつかむ提案ができるようになるとお考えですか。
難しい質問ですね。一つだけいうとしたら、「自分の思っていることを言葉にして相手に伝えること」でしょうか。デジタルビジネスは、顧客にとってもわれわれにとっても初めてのプロジェクトになる可能性がとても高い。わかったようなつもりになってプロジェクトを進めていくのは危険ですし、そもそもそんなあやふやな提案を顧客が受け入れはしないでしょう。
今から15年ほど前の話になりますが、某金融機関の共同利用システムの開発プロジェクトを担当したことがありました。私にとって初めての顧客で、業務もわからない、どんなシステムが動いているのかも知らない。しかも、100人からなるプロジェクトメンバーで顔見知りはわずか数人という条件。無い無いづくしでまいりましたが、一つずつ理解をして、コミュニケーションを重ね、私なりに理解したことを顧客やプロジェクトのメンバーに伝える。皆で共有すべき認識を、一つずつ積み重ねたことでプロジェクトを成功させた経験があります。自分がわからなければ、わかるまで聞き込む。そして、それを相手に伝える大切さを、このときに学びました。
──確かに特定業種に強く、長年にわたって優良顧客を抱えているSIerにとって、デジタルビジネスは自らの行動や考え方を変えるいいきっかけになるかもしれませんね。
中計の指標としてデジタルビジネスを成長の柱にすることを挙げましたが、このモデルへと変貌するには、まず自分たちの意識をより完全にトランスフォーメーション(転換)させていく必要があります。個々人のレベルで新しいことに興味をもって、積極的に人前に出て、自分の考えを伝えられるようになれば、自ずと会社の風土も変わってきます。そうすれば、斬新なデジタルビジネスを顧客に提案して、プロジェクトを成功に導き、成長につなげていけるはずです。
皆で共有すべき認識を、一つずつ積み重ねたことでプロジェクトを成功させた。
自分がわからなければ、わかるまで聞き込む。
そして、それを相手に伝える大切さを、このときに学びました。
<“KEY PERSON”の愛用品>キャッシュレス社会でも目立たない財布
二つ折りの薄い財布。米国や中国など、キャッシュレスが進んだ国に行ったとき、大きな財布を持ち歩くのは少し目立ってしまう。だが、この薄くて小さな財布なら「目立たずにすむ」と、海外でも馴じみやすいところが気に入っている。
眼光紙背 ~取材を終えて~
数年前から新入社員の半分を外国人から採るように心がけている。入社と同時に、文字通りの「異文化コミュニケーションを実践できる」ようにするためだ。「暗黙の了解はあまり通用せず、ちゃんと言葉にして相手に伝える」ところから始めなければならない。
CACが重点領域に掲げるデジタルビジネスは、新しく挑戦する領域。長年手がけてきた既存事業とは異なり、「暗黙の了解」は通用しない。
疑問に思ったことやわからないことを、「ちゃんと言葉にして顧客に伝える」技量がより強く求められる。また、CACグループ全体を見渡しても、インドや中国の現地会社の勤務者を中心に、全体の約6割を外国人が占める。CAC事業会社の国際化も避けては通れない。
異文化コミュニケーションの実践によって培った技量は、グローバル対応やデジタルビジネスの推進にも、大いに役立っているようである。(寶)
プロフィール
西森良太
(にしもり りょうた)
1967年、東京都生まれ、千葉県育ち。94年、東京理科大学大学院理工学研究科工業化学専攻修了。同年、コンピュータアプリケーションズ(現CAC Holdings)入社。2009年、執行役員金融ビジネスユニット副ビジネスユニット長。11年、CACアメリカ取締役社長。16年、CAC取締役兼執行役員経営統括本部長。CAC Holdings取締役(現任)。17年、CAC取締役兼常務執行役員経営統括本部長。18年1月1日、CAC代表取締役社長に就任。
会社紹介
シーエーシー(CAC)は、CAC Holdingsグループの国内中核事業会社。昨年度(2017年12月期)のCAC Holdingsグループ連結売上高は前年度比1.4%の532億円、営業利益は同41.9%減の6億9800万円。今年度からスタートしたグループ4か年中期経営計画では、最終年度(21年12期)の連結売上高700億円、営業利益40億円を目指す。売上高構成比は既存事業約500億円、M&A(企業の合併と買収)を含めた新規事業で約200億円を想定している。