世界中から優秀なプログラマが集まる
──マイクロソフトディベロップメント(MSD)についてもうかがいます。同社の製品のローカライズなどを担っているということですか?
基本的にマイクロソフトの開発体制は、グローバルでコンポーネントごとにアサインされるかたちになっていて、ローカライズもそれぞれの製品のプロダクトラインに組み込まれています。ですから、その流れでMSDが日本向けのローカライズをやることはありますが、すべての製品の日本向けローカライズを担当するわけではありません。
現在は、Windowsの一機能をつくっていたり、(検索エンジンである)「Bing」のロジックの一部を開発していたり、コンピュータビジョン系の要素技術の開発チームがあったりという感じですね。それと日本向けに特徴的な開発をやっているのは、「りんな」ですね。文字ベースでの会話だけでなく、最近は肉声を合成してりんなに声を与え、音声でも会話できるようになっています。結構おもしろいことをやっていますよ。
──日本マイクロソフトとの関係はどう理解すればいいですか。
その国・地域のビジネスの慣習だったり、法制度、社会環境によって、開発会社と販売会社を分けているケースと分けていないケースがあるんです。日本は前者なわけですが、日本マイクロソフトで身動きがとりづらいことをMSDが担当できたりする柔軟性がある一方で、組織が分かれているので連携がなかなかうまくいっていない面もなくはない。いい面と悪い面、両方ありますね。
ただ、MSDがあることによって、優秀なプログラマがアジア全域、北米、ヨーロッパなどから日本に集まってきているのは非常にポジティブな効果ですね。おかげさまで、インターンでもかなり人気があります。
──MSDの社長としての目標は?
まだ私個人の構想に過ぎないのですが、開発の現場とお客様の距離をもう少し近づけてもいいかなと思っています。場合によってはNDAを結び、部分的にソースコードを開示してインダストリー向けのフレームワークのようなものを共同開発したり、というイメージですね。新しく生まれたテクノロジーをすばやく市場にお届けできるのであれば、Win-Winの関係になります。先ほども申し上げたように、いろいろなお客様がマイクロソフトと共同で研究・開発したいと言ってくれているので、そのリクエストに応えていく体制を考えたいですね。
クラウドファースト、モバイルファーストの段階は過ぎ、
すべての製品サービスをインテリジェントエッジと
インテリジェントクラウドの考え方に則ってつくっています。
<“KEY PERSON”の愛用品>マイクロソフト製デバイス揃い踏み
「Surface Pro 4」「Surface Laptop」「Surface Book」というマイクロソフト製デバイス3種類を使いこなす。「出張はSurface Pro 4、通常業務はSurface Laptop、グラフィカルなデータをいじる時はSurface Bookと、利用シーンに応じて威力を発揮する」という。

眼光紙背 ~取材を終えて~
榊原さんのミッションは、日本マイクロソフトのCTO、MSDの社長のほかに、正確にはもう一つある。ディレクター・オブ・ナショナル・テクノロジー・オフィスというもので、官公庁などと連携し、国ごとの課題をテクノロジーで解決すべく活動する。「例えば日本は高齢化問題の世界的なフロントランナーであり、そこにAIや各種クラウド製品・サービスを生かしたインパクトのあるソリューションを提供していきたい」と意気込む。日本市場にマイクロソフトのテクノロジーを浸透させていくことに対して広範な責任を負っているが、悲壮感はない。「例えば量子コンピュータの開発では、IBMやグーグルと比べてもマイクロソフトが一番チャレンジングで未知の領域に賭けている」と話す表情をみると、入社時に感じたワクワク感は薄れていないようだ。(霹)
プロフィール
榊原 彰
(さかきばら あきら)
1986年、日本IBM入社。99年にエグゼクティブITアーキテクト、2003年にIBMアカデミー会員に選出。05年には技術職のグローバル最高位であるIBMディスティングイッシュト・エンジニアに任命される。その後、エンタープライズ・アーキテクチャ&テクノロジー部門グローバル・リード、グローバル・ビジネス・サービス事業 CTO、スマーター・シティ事業CTOなどを歴任。16年1月、日本マイクロソフトに移籍し、執行役員最高技術責任者(CTO)に就任。今年2月から、マイクロソフト ディベロップメント代表取締役社長も兼務。
会社紹介
米マイクロソフトのグローバルでのソフトウェア・関連製品開発体制の一翼を担う。2005年11月設立。従業員数は18年4月1日現在で90人。