ピー・シー・エー(PCA)は、2007年以来、実に11年ぶりに社長交代に踏み切った。長期政権だった前社長の水谷学氏からトップの座を引き継いだのは、管理本部でキャリアを積んできた佐藤文昭氏だ。創業者である故川島正夫氏は義理の父にあたる。PCAが大手ベンダーとして君臨する中堅中小企業向け基幹業務ソフト市場は、クラウドシフトの本格化で大きな変化が起こっている。社内から長年PCAを見てきた佐藤新社長は、PCAの強みをどう捉え、事業を舵取りしていくのか。
「カスタマ・ファースト」をあらためて前面に
──佐藤社長がご就任されて、創業家に経営が戻ることになりました。かなり以前から社長に就任される心の準備はしていらっしゃったのでしょうか。
いいえ、全然そんなことはないです。前職は旅行代理店に勤めていて、縁あってPCAに入社しましたが、ITの営業も開発も経験してきたわけではなかったですから。一方で、基幹業務はITベンダーだろうが非ITベンダーだろうが、あらゆる企業の活動の根幹ですから、そこにとにかく注力してきたというキャリアでした。
──公式発表では、前社長の水谷さんの在任期間が11年になるとともに、60歳を迎えられたことで経営トップの世代交代を図ること、そしてPCAグループの経営体制を強化することが社長交代の理由でしたが、率直に、ご就任に至る直接のきっかけのようなものはなんだったのでしょうか。
偶然なんですが、昨日(インタビューは6月28日)は当社の創業者である故川島正夫の命日なんです。2014年のことですが、亡くなる直前に「後は頼む」と声をかけられました。私なりに熟慮して、経営トップに就くことがこの会社のためになるのであれば、身を捧げようと決めました。
──創業者である川島さんの遺言で、PCAの後を託されたということなんですね。どのようにPCAを舵取りされるのか、具体的なビジョンはいかがでしょうか。
基幹業務そのものを長年担当してきたことは強みだと思っています。PCAの顧客対象は中小企業、中堅企業です。そして、PCA自身も社員数373人(18年3月現在)の中堅企業であり、PCAのソフトウェアの最もコアなユーザーなわけです。いわば、その最もコアなユーザーとして長年PCAのビジネスに携わってきたわけですから、ここを生かしていくということですね。
これからのPCAは、「カスタマ・ファースト」をあらためて前面に押し出してさらなる成長を目指します。開発や営業、サポート部隊などが、バックオフィス業務の部隊と横断的にコミュニケーションして、さらには取引先であるパートナー企業も巻き込み、一丸となってお客様のことを考えていく。私自身のバックグラウンドを考えても、そういう動きを引っぱっていける立ち位置ではあると自負しています。当社事業もちょうど39期目、「サンキュー」の期を迎えました(笑)。お客様への感謝という原点に立ち返るにはいいタイミングではないでしょうか。
パイオニアとしての優位性は変わらず
──PCAといえばクラウド基幹業務ソフトを10年前にいち早くリリースし、SaaSの選択肢があることが競合に対する差異化ポイントでもありました。しかし今年に入り、オービックビジネスコンサルタント(OBC)や応研も主力製品のSaaS化に踏み切りましたね。
PCAは1980年の創業以来、常に新しい技術をどうお客様の業務に役立てていただくかにフォーカスしてきた会社です。パイオニア精神はずっと持ち続けていますし、新しい技術を市場に浸透させるにあたって、先鞭をつける役割を担ってきたと思っています。PCAがクラウド製品をリリースしたのは08年ですから、先を走り過ぎていた感はあるかもしれません。
──今年1月にPCAクラウドはユーザー数が1万法人に達しましたが、ここまで10年の時間を要したことについてはどう評価されますか。
必ずしも満足すべき結果ではないかもしれませんが、クラウドの顧客基盤がすでに1万社あることは大きなアドバンテージですよ。この10年間、お客様とコミュニケーションを重ねて製品を磨いてきたということでもあります。パイオニアであるというのは、世にまだ存在していない新しい価値をお客様に認めていただく努力を厭わない証ですから、誇りをもっています。
SaaSはストックビジネスですので、短期でみた場合、売り上げが減ってしまうケースは当然多いわけですが、販売パートナーのビジネスへの影響を抑制するために、まとまった期間の利用料金をお客様にまとめてお支払いいただく「プリペイドプラン」を用意するなど、パートナーともWin-Winになるビジネスモデルを模索してきました。クラウド基幹業務ソフトの市場が広がるという予測があればこそ、先行投資して事業基盤をつくってきたわけです。競合ベンダーがクラウドに参入することで市場はさらに広がり、むしろ当社の製品が選ばれることが多くなるという期待もあります。
──売上高に占めるPCAクラウドの比率も、20%近くまで高まっていますね。
18年3月期の通期決算では、PCAクラウドの売上高は18億5400万円まで成長しました。また、クラウドと保守サービスを合わせて、ストック収入の比率が50%を超えました。19年10月の消費税率改正、そして20年1月の「Windows 7」サポート終了は特需が期待できるイベントですが、安定した経営という視点では警戒すべき要素も大きいんです。その意味で、クラウドが成長しストック収入比率が年々高まっていることはPCAの大きな強みだと考えています。
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