一代で年商230億円超のSIerを築き上げた豆蔵ホールディングス(豆蔵HD)の社長が交代した。新任の佐藤浩二代表取締役社長は、創業者で代表取締役会長に就いた荻原紀男氏とツートップで経営に臨む。荻原氏は自身が還暦を迎えたのを機に、経営の陣頭指揮を若手の佐藤社長に譲った。自らは中長期のマクロ的な視点で経営の方向性を探る役割を担う。佐藤社長は、エンジニア時代からこだわってきた現場主義を重視し、常に最前線に出向く考えだ。来年、創業20年を迎える豆蔵HD。次の20年に向けた成長を加速させる。
「経営者になる」志をもって門を叩く
──豆蔵HDグループに入社して14年、この6月20日付で社長に就任されました。叩き上げでトップの座に上り詰めるまでの経緯を、少しお話いただけますか。
正確には、代表取締役会長と同社長のツートップの布陣ですね。会長は創業者の荻原(紀男)で、長期的なビジョンをもって経営にあたり、私は社長として日々の経営を担っていきます。
もう一つ、私が豆蔵HDグループに入るきっかけとなったのは、2004年当時、中小企業向け業務アプリケーションのASPサービス会社イー・ベンチャーサポート(現オープンストリーム)への転職です。その後の06年に、グループの傘下に入りました。私自身はオープンストリームの役員だけでなく、豆蔵HDグループの役員を経験する機会に恵まれ、今に至るというわけです。
──もともと経営者になることを志しておられたのでしょうか。大学は応用物理学科を卒業し、技術職からキャリアをスタートされたとうかがっていますが。
ご指摘の通りで、最初は日本ユニシスのCE(カスタマーエンジニア)からスタート。客先に出向いてシステムの保守作業を担っていました。日本ユニシスでは、当時から顧客が困っていること、課題に思っていることを聞き込んでくるよう徹底的に現場のCEに叩き込むのが、会社の方針のようなものでした。
私も教えられた通りに、保守作業で出向いた客先で、いろいろいな人と話しているうちに、「自分でも顧客の課題を解決してみたい」と思うようになり、大手コンピューターメーカーの企画・営業職へ転職することにしました。しばらく企画・営業職をやっているうちに、「経営者になりたい」という思いが頭をもたげてきて、今でいうスタートアップ企業の門を叩いたのですね。35才前後でまだ若く、あのときは本当に短絡的思考でした(苦笑)。そんな私を受け入れてくれたのが、先述のイー・ベンチャーサポートです。
──イー・ベンチャーサポートへの転職理由は「御社の経営者になりたい」でしょうか。
いやいや、さすがにそこまで厚かましくありませんよ。普通に「経営を学ばせてください」とお願いしました。イー・ベンチャーサポートはオーナー企業で、幹部や従業員の皆さんのオーナーへの信頼は厚いものがある一方で、私のような“外様”が「経営を学びたい」といっても、おいそれと受け入れられるほど甘くはありませんでしたが。
私の背中をちゃんと見てくれている
──では、どうやって経営者候補としてリーダーシップを発揮されたのですか。
人をまとめていくには、スタッフのみんなとよくコミュニケーションをとるのが大切といわれますが、私の場合は、日々直面する困難事の矢面に立つこと、そして稼げるようにすることでしたね。もちろんコミュニケーションも大切にしました。
──具体的には、どのような矢面に立たれたのですか。
もう10年以上前の話ですが、売掛金の回収と、問題プロジェクトの火消し役となったのが印象に残ってますね。
顧客によっては支払いが滞るケースがままあります。あのときは3000万円ほど焦げ付きそうになりました。当時の年商が10億円くらいでしたので、もし回収できなければ年間の営業利益の半分が吹き飛ぶ重大事。最終的には何度も客先に足を運び、何とか代金を回収することができました。
問題プロジェクトが起きたとき客先に出向いて、お互いの立場や考えを全て出して、最終的には「今の予算ではここまでしかできません」と線引きします。SIerの問題プロジェクトは、一方的にSIerに落ち度があるというケースはまれで、お互いの思い違いから傷口が大きくなっていくことが多い。最後は交渉になりますので、そこで絶対に逃げないことです。スタッフのみんなは見ていないようで、私の背中をちゃんと見てくれていました。
──稼げるようになるために、どのような施策を打ったのですか。
残念ながら当初のASP事業はうまくいかなかったのですが、オープンストリームとなって力を入れたJava言語を使ったシステム開発は軌道に乗りました。2000年代は、新しいネットサービスが次々と登場した時代です。当時は「eビジネス」などといわれ、今でいうところの「デジタライゼーション」や「デジタルトランスフォーメーション(DX)」に相当するビジネスです。
Javaとネットサービスの相性がよく、「ネットサービスを立ち上げるんだったらオープンストリームだね」との評判をいただき、この分野では大手ベンダーを介さなくても、ユーザー企業から直接ご発注をいただけるようになったのです。二次三次の下請けでやるよりも、元請けで仕事をしたほうが粗利もよいですし、顧客との意思疎通もスムーズになり、さらによいシステムをつくることができる好循環を生み出せるようになりました。
──なるほど、豆蔵HDグループの経営を担うようになってからも、オープンストリームで学んだことが生かされているのですね。
そうですね。下請けで大手ベンダーから仕事をもらっていれば、売掛金の回収リスクや、問題プロジェクトで大赤字になる心配もほとんどありません。ただ、それでは日銭を得ることはできても十分に稼げないのです。多くの中小SIerがそうした環境に甘んじてしまっている姿をよく見かけます。分かっているのだけれども、さまざまなリスクがあるために前へ踏み出せない。豆蔵HDグループでは、ちゅうちょすることなく前へ足を踏み出していきます。
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