NTTグループ向けビジネスが約8割を占めるNTTコムウェア。固定電話系のネットワークなどの設備投資の削減が続く中、同社は「ノンテレコム」領域のビジネス拡大を加速させていく。持ち前のソフトウェア・エンジニアリングの力量を生かして、ベンチャー企業と協業したり、NTTコムウェア独自の画像認識AI(人工知能)を応用したビジネスを展開。ライフスタイルの変革や、社会課題の解決を目指すNTTグループの「B2B2X」戦略を率先して実行に移していく。
エンジニアリングの力でノンテレコムを開拓
――栗島社長が目指す「ノンテレコム」領域とは、どのようなものでしょうか。
NTTコムウェアの直近の売り上げ1727億円の8割ほどは、NTTグループ向けのビジネスが占めます。つまり、電話会社向けビジネスの割合が多いのに、「ノンテレコムとはどういうことだ?」ということですよね。
実は、NTTグループの国内通信ネットワーク関連の設備投資額は年々減少しているのです。もちろんNTTコミュニケーションズのデータセンター(DC)やNTTドコモの5Gネットワークなどの投資は別ですが、従来型の固定電話などへの投資は効率化していかなきゃならない。当社としても、NTTの設備投資の変遷に合わせて、非電話領域=ノンテレコム分野のビジネスに力を入れています。
――具体的には、どのようなものをイメージしていますか。
NTTグループも固定電話系以外のビジネスを積極的に伸ばしています。NTTデータのSIビジネスもそうですし、NTTコムのデータセンター(DC)事業もそのうちの一つ。NTT都市開発やNTTファシリティーズなども、ノンテレコム系のビジネスです。NTTコムウェアとしてもグループの一員として、主にソフトウェア・エンジニアリングの側面を支えていくことをイメージしています。
というのも、この会社は、ソフトウェア・エンジニアリングに非常に強い会社なのです。当社のルーツである中央ソフトウェアセンタがNTT社内に発足した1985年以来、30年余りにわたってNTTグループ向けのソフト開発を担ってきた実績を持っています。私自身も、2016年6月、NTTデータ副社長からNTTコムウェア副社長となり、その後トップに就きましたが、古巣のNTTデータと比較して、NTTコムウェアは非常にエンジニアリングに強い会社だと実感しました。
――例えば、どのようなものでしょう。
そうですね。ちょっと抽象的になってしまいますが、例えば、NTTデータはビジネスとビジネスを掛け合わせて、もっと大きなビジネスを組み立てていくイメージだとすれば、NTTコムウェアは技術と技術を掛け合わせて、より高度な技術を極めていく感じでしょうか。もちろんSIerとして顧客のビジネスを成長させる提案に力を入れていますが、それも技術ありきのところがあるのですね。
NTTグループが掲げるスローガンに「B2B2X」がありますが、これは最初の「B」がNTTグループとそのビジネスパートナー、2番目の「B」が顧客企業、最後の「X」が顧客企業の先にいるエンドユーザーを指しています。NTTグループは、最新のITを駆使して顧客企業がエンドユーザーにより多くの付加価値を提供できるよう努めていく意気込みをスローガンにしたものです。当社としても、B2B2Xの方針に沿って、例えば個人のライフスタイル変革を後押ししたり、社会課題の解決に尽力していく。
世の中の動きをよく知り、「B2B2X」を推進する
――B2B2X実践への課題があるとすれば、どんなところにありますか。
顧客やエンドユーザーのことをもっと知ること、さらに言えば世の中の動きをしっかり捉えていくことがB2B2Xの実践に欠かせません。しかし、当社のようにNTTグループ向けビジネスの比率が大きいと、ややもすれば視野が狭くなりやすくなるのが課題です。そうならないために、グループ以外のビジネスも意欲的に取り組んでいく必要があります。
NTTグループ外の売上比率は2割ほどですが、この領域は世の中の動きを知る上でとても重要です。顧客企業やビジネスパートナーと連携して、持ち前のソフトウェア・エンジニアリングの力量を発揮する。顧客企業のビジネスの付加価値を高めて、さらに進んではエンドユーザーのライフスタイル変革や社会課題の解決につなげていく。ここで得た知見は、NTTグループ向けのビジネスにも大いに還元できます。
――グループ外に向けたビジネスでは、どのようなものに取り組んでおられますか。
最近では、当社の画像認識AIの「Deeptector(ディープテクター)」を使った新規事業の立ち上げが相次いでいます。
製造業の生産ラインでは、画像認識AIを使って不良品を検出するニーズがあるのですが、工場内は高温多湿だったり、振動が大きかったり、電子機器には過酷な環境。そこで日本ヒューレット・パッカードと組んで、厳しい動作環境でも故障しにくい堅牢なハードウェアを採用した「産業用エッジAIパッケージ」を昨年11月に出しています。
ほかにも、SIerのミツイワが手掛ける密漁船の監視サービスに、当社のDeeptectorが採用されています。ミツイワは今年4月から、実際の漁場でドローンによる密漁船監視のフィールド検証を始めているのですが、撮影した映像をDeeptectorで解析して密漁船を検出。すぐさまそのデータを当局に送って、取り締まりや密漁の抑止に役立てていこうとしています。
あと、おもしろいところでは、Deeptectorとベンチャー企業のビジネスを結び付ける取り組みを行っており、直近では4社との協業を今年2月から始めています。このうちの1社のMealthy(メルシー)では、料理の写真から肉や野菜を識別してカロリーなどを試算。栄養士が食事指導するサービスを提供しています。牛丼と豚丼を写真から判別するのはAIにとって難しいとされてきたのですが、当社のDeeptectorはあっさり識別してしまったので、連携がスムーズに進んだ経緯があります。
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