データベースの専門家集団であるインサイトテクノロジーの経営トップにアレン・マイナー氏が就いた。ITの価値の中心が“データ活用”に移りつつある現在、データの特性に合わせて複数のデータベースを統合的に運用するプラットフォームの構築が求められている。マイナー氏は、そのデータプラットフォームのビジネスに大きな成長の可能性を見出した。日本オラクル初代代表を務め、その後、国内ITベンチャー企業への投資や、外国企業とのジョイントベンチャー(合弁事業)を手掛けるサンブリッジを創業。そして今、再びデータベースの事業会社のトップとして、経営の陣頭指揮を執る。
ITビジネスの価値の中心が“データ活用”に
――マイナーさんは、サンブリッジグループの創業者として、長らくITベンチャーへの投資などを手掛けていましたが、なぜ今のタイミングで事業会社の経営トップに返り咲くことを選ばれたのですか。
ITビジネスが生み出す価値の中心がデータ活用に移りつつあるからです。IoTにせよ、AI(人工知能)にせよ、収集して分析する対象となるデータがなければ機能しませんよね。そのデータを分析可能な状態で格納するのがデータベースであり、インサイトテクノロジーは、そのデータベースの専門家集団です。
私はインサイトテクノロジーの可能性に早くから着目しており、株主としてビジネスに関与していました。経営はもっぱら創業者である小幡一郎さんが担っておられましたが、創業から23年経ち、健康上の理由で「経営を譲りたい」との申し出がありましたので、「じゃあ、私が!」と、この9月1日付で経営を引き継ぎました。
――マイナーさんは、もともと日本オラクル初代代表としてビジネスを急成長させた実績をお持ちで、データベースのビジネスには腕に覚えがあるのではないでしょうか。
そうですね。ただ、1980年代、90年代のデータベースと、今のデータベースとでは、種類や役割に大きな違いがあります。当時は、ハードウェアに依存しないオープンなリレーショナル型データベース管理ソフトは画期的な商材であり、世界中に瞬く間に普及しました。今もリレーショナル型は業務で最も多く使われているのですが、それ以外にも大規模データの分散処理を得意とするタイプや、画像や映像の処理に長けたタイプなど、さまざまなタイプのデータベースが使われるようになりました。
当社は、データベースの専門家集団として、こうした異なるデータベースを統合的に扱う“データプラットフォーム”のビジネスで先頭を走っています。データの量や種類が増えれば増えるほど、新しいデータ基盤への需要が増える。だったら、私自身が乗り出して「ビジネスを一気に拡大させてみせよう」と思ったのです。
――つまり、これからは複数のデータやデータベースを統合的に扱うプラットフォームビジネスが勃興するとみているのですか。
ある調査会社の試算によれば、デジタルデータは指数関数的に伸びており、2020年には約350億テラバイトに膨れあがるとみられています。10年が推定10億テラバイトでしたので、10年間でざっと35倍です。次の10年間も飛躍的に伸びるでしょう。いかに多くのデータを集めて、効率よく分析し、ビジネスに生かしていくかが企業の競争力を大きく左右します。
データプラットフォームでシェア獲得へ
――データベースは「枯れた技術」といわれて久しいですが、それでもデータベース回りの設計が良いと、アプリケーションのパフォーマンスが数倍に高まるといった話は、今でもよく聞きます。
そうした指摘は、長年データベースに関わってきた者として嬉しいですね。極端な例ではありますが、グーグルは1日に約2万4000テラバイトを処理して、SNSのフェイスブックは毎日25億件のコンテンツ、500テラバイトを処理しているといわれています。興味深いのは25億件のコンテンツのうち、写真や動画が3億件を占めるとみられていることです。つまり、文書や写真、動画といった非構造化データがどんどん増えていき、向こう数年のうちに、データの実に9割が非構造化データが占めると予測されるほどです。
――データプラットフォーム分野では、どのような取り組みをしていますか。
当社では、持ち前の各種データベースのチューニングのノウハウと、データベースに最適化したハードウェアを組み合わせたアプライアンスを製品化しています。CPUやメモリー、I/Oディスクを効率よく使うことによって、オンライン・トランザクション処理で世界最速級の他社アプライアンス製品と同等か、それ以上の処理速度を実現しつつ、価格はおよそ5分の1に抑えました。
異なる種類の大量のデータを、より安く扱えるようになれば、それだけ「インサイト(本質を導き出すための洞察)」が身近になる。社名の通り、当社の企業目標はビッグデータを活用した「インサイト」のためのデータプラットフォームを構築することです。データ分析によって市場や顧客の“本質”が見えてくる。将来のITは、本来こうした使われ方をするべきだと考えています。
――会計や給与の計算をさせるだけがコンピューターの役割ではないと。
そうです。これまでのITが「インフォメーション・テクノロジー」だとしたら、これからのITは「インサイト・テクノロジー」であるべきです。見えないもの、知らないものを可視化して、深い洞察をもって本質を見抜くことが、将来のコンピューターの在り方だと捉えています。それをAIと呼んでも、ビッグデータ分析と呼んでも構いません。当社は、何らかのインサイトを得るためのリーディングカンパニーになることを目指します。もちろん、当社の社名もここから来ており、社名に恥じない実績をこれからも作っていきます。
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