ベンチャーの競争力の源泉はスピードにある
――マイナーさんご自身は、サンブリッジグループとインサイトテクノロジーの掛け持ちをしていかれるのですか。
そのつもりです。ただ、身体は一つしかありませんので、日々の会社運営は、サンブリッジなら小野さん(小野裕之社長兼CEO)、インサイトテクノロジーなら森田さん(森田俊哉副社長兼COO)に担ってもらいます。インサイトテクノロジー創業者の小幡さんには、技術的なアドバイスをしていただく顧問として、引き続きご尽力していただきます。私はインサイトテクノロジーの成長をもっと加速させるための戦略部分を担います。
――これまで数々の企業を育ててきたマイナーさんにとって、ITベンチャーが成長するポイントは何だとお考えですか。
大手企業の隙を突く速さです。完成度はあまり重要じゃない。セールスフォース・ドットコムを例に挙げれば、営業支援や顧客管理そのものは別に目新しいものではなかった。そのソフトをディスクに入れて配るのではなく、オンラインで提供する点に新規性があった。さらに、その事業スピードたるや目覚ましいものがあり、あっという間に大手を追い越した。オラクルだって、オープン化の先陣を切ってシェアを伸ばしました。
ベンチャーが大手に勝っているほぼ唯一の点はスピードです。このスピードを生かすためには、自分たちが思う完璧で理想的な商品を作っている余裕はありません。30人の技術者で作るより、3人の天才で作るほうが意思疎通の速さの面で有利に立つことができます。なにより、最初から完璧なものを作ってしまっては、そこで満足してしまい、次のイノベーションを起こすモチベーションが下がってしまいますしね(笑)。
――そのような経験は生かせそうですか。
もちろん生かします。データベース技術に特化した専門家集団として、データベースのパフォーマンスやセキュリティー監査分野で伸びてきたのですが、商品やサービスの展開速度がベンチャーに比べたら少し遅い。複数のデータベースを統合的に運用するデータプラットフォームに対する大きな需要の波がきている今、再度、ベンチャーのスピードを発揮して、ビジネスを一気に拡大したいと思います。
Favorite Goods
アレン・マイナー氏のお気に入りは父親から贈られた木工細工。父親は地元ユタ州の警察官。「当時の公務員はとても薄給で、高価な玩具を買う余裕はない。その代わりに“ほしい”とねだったものは、木工細工でなんでも作ってくれた」と話す。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ITベンチャーが将来像を描くのに根拠は必要ない
アレン・マイナー氏が考えるITベンチャー企業のリーダー像とは、「大きな将来像を描けていること」だ。独創的なアイデアと、既存大手プレーヤーの間隙を縫うスピードがあれば、ベンチャーとしての成長の可能性は十分にある。「将来像を描くのに根拠は必要ない」と話す。
同氏が創業したサンブリッジグループは、営業支援のセールスフォース・ドットコムや経費精算のコンカー、財務管理のキリバ・ジャパンなど海外企業の日本における合弁事業、国内ITスタートアップへの数々の投資実績を持つ。「日本発のITベンチャーをもっと多く育てたい」との思いが根底にある。
ITの価値がデータに移りつつある今、データベースの専門家集団であるインサイトテクノロジーは、ベンチャー的に伸びる素質がある。複数のデータベースを統合運用するデータプラットフォームを追求していくことで、データをより深く洞察して本質を引き出す“インサイト・プラットフォーム”にたどり着く。
さらに進んでは、「“インサイトテクノロジー”の略語が“IT”だと言われるようになる」と、大きな夢を描く。
プロフィール
アレン・マイナー
(Allen Miner)
1961年、米国ユタ州生まれ。地元ユタ州のブリガムヤング大学でコンピューター科学と東洋文化を学ぶ。その後、宣教師として来日。86年、米オラクル入社。87年、日本オラクルの初代代表に就任。99年、サンブリッジを設立、現在は代表取締役会長を務める。2018年9月、インサイトテクノロジー代表取締役社長兼CEOに就任。米国での軽飛行機の操縦免許を持つ。
会社紹介
インサイトテクノロジーはデータベースの専門家集団。売上構成比はデータベースパフォーマンス管理やデータベース監査、アプライアンス製品などの自社製品、ならびにデータベース関連の他社製品、これらを組み合わせたシステムの構築、コンサルティングサービスがそれぞれ約3分の1ずつを占める。従業員数は約80人。