前期に続き、今期も売上高の過去最高更新を目指す勢いのネットワンシステムズ。かつては通信キャリア向け事業に大きく依存していたが、現在の稼ぎ頭は企業や自治体などの一般組織だ。アプリケーション開発には手を伸ばさず、ITインフラの領域に特化した戦略をとる同社を今年6月から率いるのは、ネットワーク技術者出身の荒井透社長。仮想化技術やクラウドの活用が当たり前になった今こそ、ネットワークを知り尽くした同社が強みを発揮できるのだという。
ITに求められるのは「入力」と「出力」
――企業・公共向けの事業が非常に好調です。通信キャリアの投資減は以前から分かっていたこととはいえ、実際にこれだけの事業構造の転換を行うのは容易ではなかったと思います。
通信業界の設備投資が一巡し、実際に数年前には当社の業績も大きく落ち込みました。どうやって生き残るかというところで、ネットワーク側から仮想化されたインフラの世界を制御できないかと考え、サーバーやストレージなどのプラットフォームにまでビジネス領域を広げました。そこで、ネットワークを専門にしているからこそできることがたくさんあり、それらがお客様に受け入れられたということだと思います。
――ネットワークの専門家だからこそできることとは。
システムに何か問題が発生した場合、今のインフラは仮想化されていますから、アプリケーション側から見ても根本的な原因は分からないことが多い。しかし、ネットワークのレイヤーまで下りてくると、何と何が通信しているのかは正確に特定できます。われわれはネットワークパケットをベースに物事を考えているので、パフォーマンスが出ない時、あるいは攻撃者が入ってきた時、仮想化された構成においてもそれらの原因を物理的に突き止められるという強みがあります。
――多くのITベンダーは、ビジネスアプリケーションの部分を付加価値として提供しているのに対し、ネットワンシステムズは逆に、その領域には出ないという戦略です。しかしインフラは一般にコモディティー化し、どんどん安くなっていく部分ではないでしょうか。
製品のコストは下がって、人件費もたたかれる中、どこで利益を上げるのか。確かに“物”を売っていたらその通りだと思いますが、われわれが提供しているのは物ではなく仕組みです。お客様がITに求めているのは、手持ちの情報を入力すれば、知りたい情報が出力されるということであって、そのためのツールは何でもいいわけです。アプリケーションはツールですから、お客様がその時一番いいと思われるもの、場合によってはその時に一番はやっているものかもしれませんが(笑)、それを使っていただければいい。われわれはどんなアプリケーションが来てもいいように、入力・出力の部分であるインフラをきれいに整備するのが仕事です。
――ITの本質が入力・出力の仕組みであるということは、大昔から変わらないと思いますが、なぜ今になってインフラ部分があらためて重視されるのでしょうか。
ネットワークのキャパシティーが大きくなったからです。クラウドはその最たる例で、比較的安価なサーバーをガンガンと積み上げて、運用をある程度自動化し、好きなようにリソースを分配する……これはネットワークが速くなったからできることです。昔から分散コンピューティングのようなアーキテクチャーは提案されていましたが、以前はネットワークが弱くて実現できなかった。それが今では、ネットワークの上にCPUとかメモリーとかストレージとかが直接ささるようになり、リソースのプランニングが自由になったということです。昔は一つの箱の中に収まった世界で処理していたのが、箱をまたいでも従来とほぼ同じか、もしくはもっと速く処理できるようになりつつある。
――従来のコンピューターであれば、専用の内部バスやインターコネクトだった部分が、イーサネットに置き換わってきた。
イーサネットで実装したほうが低コストですから。容量が足りなければ、100ギガビットの線を複数並べればいいだけの話です。全てのリソースがシームレスに同じ技術でつながる。面白いことができる世の中になったと思いませんか。
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