データ保護の動きはチャンスだ
――なるほど。就労者や労働時間が減っても、デジタル資本主義をうまく取り入れれば成長の余地はあると。ただ、GAFAがやっていることは、日本企業が最も苦手とする領域ではないでしょうか。
彼らと同じことをやる必要はありません。特定の業界、特定のサービス、特定の国や地域に特化したデータプラットフォームでも、富を生み出すことは十分に可能です。むしろ、手当たり次第にデータ収集を広げていこうとしても、おそらく各国・地域の反発を招く危険性が高まります。富を生み出すデータを勝手に国外に持ち出されては、国富の流失につながりかねないからです。EUや中国のデータ保護規制、日本の個人情報保護の議論など、おそらくデータ保護の動きはより活発化するでしょう。しかし、いくら規制がかかったところで、デジタル資本主義の流れそのものを止めることはできません。むしろ、こうした規制がデータを価値に変えようとするGAFA以外の企業に大きなチャンスをもたらすと考えています。
――NRIとしては、それをどのようにビジネスに結びつけていきますか。
当社の強みは、産業構造の変化を分析・予測する能力と、ITソリューションの両方をもっている点です。デジタル資本主義の大きな流れを踏まえて、新しいビジネスの立ち上げを顧客と一緒に取り組んでいくことで、付加価値の高いビジネスを推進していきます。顧客がすでに事業モデルを策定し、IT予算を組んでから営業をかけていては、価格だけの商談になりがちです。そうではなく、将来を見据えて顧客とともに戦略的なビジネスを組み上げていく。デジタル資本主義の勃興は、当社にとっても大きなビジネスチャンスになるのです。
――チャンスの一例を挙げていただくとすれば、どのようなものでしょう。
例えば、「移動」という事象を「個人視点」で見た場合、マイカー、電車、飛行機、各種保険、シェアリング、同乗、維持管理などに広がっていきます。個人が移動についてどのように捉えているかをデータから知ることで、移動に関する全ての市場がビジネスターゲットとなる。マイカーの販売という商品起点で見るより何倍もの大きな市場が広がっているのです。その大きな市場で発生するデータを活用し、顧客企業がさらに競争力のあるサービスや、大きな富を生み出せるよう支援していくことで、当社自身も成長していきます。
Favorite Goods
古巣のコンサルティング事業部門の有志メンバーから贈られた地球儀。ITソリューション部門の本格的なグローバル進出の検討が大詰めを迎えていた15年、「それとなく私の背中を押してくれるようなアイテムを選んでくれた」と、心遣いに感謝している。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「豊かさ」や「価値」とは何か
もはや生活に欠かせなくなったスマートフォンの検索やナビゲーション、ソーシャルメディアは、ほぼ全て無料で使える。その原資となっているのはエンドユーザーが提供するデータであり、データが富を生み出している。富の一部を還元することで、ユーザーは生活の「豊かさ」や「利便性」を享受する。
此本臣吾社長は、これを「デジタル資本主義」と呼び、従来の「産業資本主義とは一線を画すもの」だと言う。国内において「若者の○○離れ」と呼ばれる現象も、名目上のGDPが伸び悩んでいるのも、案外、このデジタル資本主義に引き寄せられていることの一端なのかもしれない。
「豊かさとは何か」「GDPでは見えてこない大きな価値が生まれている」――。市場の原理が大きく変わっていると此本社長は指摘する。コンサルティングを通じて、データから富を生み出す仕組みを顧客企業とともに考え、ITソリューションでデータプラットフォームを実装。デジタル資本主義という新しい“市場の原理”を取り入れていくことで、「付加価値の高いSIビジネスの創出につなげていく」と、此本社長は熱っぽく語る。
プロフィール
此本臣吾
(このもと しんご)
1960年、東京都生まれ。85年、東京大学大学院工学研究科産業機械工学修了。同年、野村総合研究所入社。94年、台湾・台北事務所長(のちに台北支店長)。2004年、執行役員コンサルティング第三事業本部長兼アジア・中国事業コンサルティング部長嘱託。10年、常務執行役員コンサルティング事業本部長。15年、専務執行役員ビジネス部門担当、コンサルティング事業担当。16年4月1日、代表取締役社長に就任。
会社紹介
古巣のコンサルティング事業部門の有志メンバーから贈られた地球儀。ITソリューション部門の本格的なグローバル進出の検討が大詰めを迎えていた15年、「それとなく私の背中を押してくれるようなアイテムを選んでくれた」と、心遣いに感謝している。