2025年のSAP ERPサポート期限や日系企業のグローバル対応の進展、デジタルビジネスへの対応、さらには「2025年の崖」への課題意識を背景に、基幹系システムの刷新需要が高まっている。NTTデータグループでSAPビジネスを専門に手掛けるNTTデータグローバルソリューションズ(NTTデータGSL)は、ERP刷新需要を追い風に年率2割近い勢いでビジネスを伸ばしている。同社が培ってきたSAP導入の独自の方法論や、NTTデータグループのグローバルでの対応力をテコに「SAPビジネスを一段と成長させていく」(磯谷元伸代表取締役社長)と強気だ。
グローバル対応と熟練者の不足
――SAP製のERPを巡っては、現行製品が25年にサポート期限を迎えることに加え、2025年の崖の問題から新しいERPへの乗り換え需要が高まっています。NTTデータGSLのビジネスに相当な追い風になっているのではないですか。
おかげさまでここ数年の売上高は、年率で2割近い伸びを示しています。当社はNTTデータグループのSAPビジネスを専門に担当しており、主な顧客は国内日系企業です。ご指摘の通り、SAPのサポート期限のみならず、日系企業のグローバル対応が進展していることや、いわゆる2025年の崖を乗り越えようと基幹系システムを見直す動きが活発になっていることなどが、当社のビジネスにはプラスに働いています。
――NTTデータGSLとしては、グローバル対応や2025年の崖の乗り越えをどのように支援されておられますか。
SAPを使う比較的大きな規模の会社は、基幹系システムのグローバル対応を積極的に行っていますが、その一方で、国内本社の基幹系システムを過剰にカスタマイズしたり、個社独自の業務フローが多すぎたりしているケースが散見されます。
あまりにも個別カスタマイズを追求しすぎた基幹系システムは、2025年の崖を乗り越えるのに大きな障害になってしまいます。これは昨年9月に経済産業省が公表した「DXレポート」に詳しいのですが、一言で言えば既存の基幹系システムに精通した人材が定年退職などで少なくなり、熟練社員が減っていく。何も手を打たなければブラックボックス化して、維持費だけがかさむ状況になりかねないということ。
そこで、グローバル対応を進展させるのと並行して、国内本社の基幹系システムも見直しをかけて、標準化を進めていきましょうと、当社では提案しています。グローバル対応と2025年の崖は、ぱっとみただけですと別のことのように思われがちですが、根っこのところでは案外つながっています。
――ERPパッケージ導入に際しての標準化は、古いようで新しい問題と見受けられますが、NTTデータGSLではどのようなアプローチをとっていますか。
それぞれの国や地域で事情は異なりますので、グローバル対応を効率的に進めていこうとすれば、やはり何らかの標準化が必要になってきます。デジタルトランスフォーメーション(DX)を展開していくにしても、ユーザー企業の国内と海外の基幹系システムがあまりにも違っていたら、スムーズに展開できるものもできなくなってしまう。まずは海外での標準化を優先するアプローチを重視しています。
SAPに強いNTTデータグループ
――国内本社から海外へロールアウトするのではなくて、海外から順番に基幹系システムを刷新するのですか。
あくまで一つの方法論としてです。まず海外でのKPI(経営指標)を決めて、それをもとに標準化を進めます。例えば、日系製造業が多く進出するタイやマレーシア、フィリピン、中南米、北米などと2年ほどかけて標準化を進めていく過程で、おおよそ「海外ではこうだな」とパターンが見えてくるはずです。それをもって最後に国内本社の基幹系システムの刷新に取りかかるという段取りです。
海外の標準化を国内に押しつけるのではなく、ユーザー企業と一緒になって海外の標準化を進める中で、そのユーザー企業が目指すべき標準が見えてくる。そのユーザー企業が納得して受け入れた標準を国内に落とし込んでいく。国内では、先人が綿々と作り込んできた非常に品質の高い業務システムがあることと思います。先に標準化しておいたグローバルの会計や販売、人事と整合性をとっていく方向で基幹システムを刷新すれば、方向性がぶれずにスムーズに進むことが多い。
――なるほど、ユーザー企業が納得できるかたちでグローバルの標準化を進めつつ、徐々に外堀を埋めていくわけですね。
NTTデータグループ全体では、世界53カ国、214都市、約11万8000人を展開しており、そのうち1万人がSAPの高度な専門知識を持つコンサルタントです。07年度にグループに迎え入れたドイツのアイテリジェンスをはじめに、M&A(企業の合併と買収)によって海外グループ会社を増やしてきました。SAPを得意とするSIerを重点的にグループに迎え入れたこともあり、NTTデータグループはSAPコンサルタントを多く抱える世界有数のSIerとなりました。
当社は主に国内の日系ユーザー企業を担当していますが、海外ではアイテリジェンスをはじめ各国・地域のグループ会社と連携しながらSAP事業を展開しています。NTTデータグループ自身も、数々のM&Aを経験する中で他社ERPからSAPへ統合したり、事業部門だけ譲り受けるときは、相手先企業の当該事業の部分だけのデータを切り出したりとノウハウを数多く蓄積。こうした知見をユーザー企業向けのSAP案件に応用できる点も、顧客から高い評価をいただける背景になっていると自負しています。
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