「SIS」がITコンサルの原点に
――今年7月をめどにNTTコミュニケーションズとディメンションデータの海外事業を再編する準備が進んでいます。NTTデータグループの海外事業も、NTTグループ全体の海外事業とより密接に連携を進めていく方針と聞いています。
これまでも海外ではNTTグループ間の連携を積極的に行っていましたが、一連の再編によって連携がより密になると期待しています。とりわけ、EUのデータ保護規則を筆頭に、各国・地域でデータ保護に関心が高まる中、その国や地域の規則に従ってデータを適切に管理することはとても重要です。NTTコミュニケーションズは、世界約20カ国・地域の主要都市で、高品質なデータセンターサービスを展開しており、ディメンションデータは通信ネットワークの構築に強い。彼らとの連携を一段と強化することでデータ保護の規制やニーズに応えていきます。
――磯谷社長ご自身についてお聞きしたいのですが。SAP事業とはいつ頃から関わり始めましたか。
SAPが本格的に日本に上陸したのは90年代前半ですが、その頃、私はNTTデータ経営研究所でITコンサルティングを行っていました。今から思えば、当時はまだERP導入で重要となるITコンサルの手法が確立されておらず、経営研の戦略系コンサルタントの先輩方と一緒に「ITコンサルはどうあるべきか」という議論を重ねていた頃です。
さらにさかのぼれば、入社3年目の80年代末、米ボーイングのエキスパートシステムの研修で渡米したことがあります。当時のボーイングには今で言う「AI活用」の教育サービスがあって、そのサービスを利用した研修でした。SIS(戦略的情報システム)が注目を集めていた時期で、ITをもっと戦略的に活用しようという動きが盛んに行われており、私にとってのITコンサルの原点は、ここにあったと今では思います。
――当時のSISは、今でいうデジタライゼーションやDXに通じる取り組みでしょうか。
上流のITコンサルが重要だという点では共通していますね。近年では、デジタルビジネスの立ち上げが盛んに行われていますが、新規ビジネスが軌道に乗れば、基幹系システムと必ず連携します。しかし、その基幹系システムが旧態依然としていては足を引っ張ってしまう。グローバル展開やIT人材の有効活用、デジタル対応などを包括的、かつ効果的に行う当社のITコンサルをテコに、ビジネスを一段と伸ばしていく考えです。
Favorite Goods
入社3年目、米ボーイングが実施した教育研修サービスに参加したときのネームプレート。情報システムの戦略的な活用についての研修で、自身が「ITコンサルティングの道に進むきっかけになった思い出の品」として、今でも大切にしている。
眼光紙背 ~取材を終えて~
同じ船に乗った「クルー」
磯谷元伸氏は、NTTデータでITコンサルティングの手法の確立に貢献してきた人物の一人だ。顧客の要件を固めてIT導入まで落とし込んでいく中で、「基幹業務システムは絶対に失敗が許されない」ことを痛感してきた。
近年のデジタルビジネス系のシステムのように、ある程度の失敗を織り込んで、実証実験を重ねる手法とは対照的なアプローチ。ユーザー企業は“一大決心”をして、基幹業務を新システムへと載せ替える。それだけに上流工程のITコンサルティングは、ひときわ重要になる。
何年もの準備期間を費やしても、全てのプロジェクトが順調に進むわけではない。途中、ユーザー企業との間で険悪な雰囲気になることもある。それでも、お互いに胸襟を開いて徹底的に課題解決に努める。
ある製造業ユーザーでは、紆余曲折あった末に、基幹システムが無事稼働。ユーザーの担当者が整然と稼働する新しい生産現場を見せながら、「とても助かった」と労ってくれた。発注者・受注者の関係を越えて、同じ船に乗った「クルー」という意識が芽生える。「ITコンサルの醍醐味を感じる場面だ」と磯谷氏は話す。
プロフィール
磯谷元伸
(いそや もとのぶ)
1963年、東京都生まれ。86年、東京大学工学部卒業。同年日本電信電話入社。88年、NTTデータ通信(現NTTデータ)に転籍。NTTデータ経営研究所、NTTデータ人事部部長などを経て、2010年、NTTデータ流通・サービス事業本部副事業本部長。15年、執行役員製造ITイノベーション事業本部長。16年12月、NTTデータグローバルソリューションズ代表取締役社長に就任(兼務)。18年6月から専任となり、現在に至る。
会社紹介
NTTデータグローバルソリューションズは、国内の日系企業向けのSAPビジネスを専門とし、上流コンサルティングから運用保守、海外展開に至るまでの支援をワンストップで手がける会社として2012年に設立。SAPの「S/4HANA」や「Business ByDesign」などを取り扱っている。