デルとEMCの経営統合以降、国内市場における「Dell EMC」ブランドの事業が好調だ。昨年秋に来日したマイケル・デルCEOは、成熟市場であるにもかかわらず日本での売上高が2桁成長を継続していることを明らかにしている。昨今キーワードとなっている「デジタル変革」を、どのようにしてITインフラ事業の成長につなげたのか。EMCジャパンの大塚俊彦社長に聞く。
IT変革の3段階を示す「MAT」
――デルとの統合が完了して一昨年、昨年と、日本市場の事業は非常に好調とのことです。ここ数年、国内のIT市場は全体的に堅調に推移していますが、市場平均を上回る勢いで伸びているということでしょうか。
具体的な数字は申し上げられないのですが、Dell EMCとなった統合の効果が十分に効いています。われわれも各調査会社から公表されているような市場シェアの推移を注視していますが、その数字は幅広いカテゴリーの製品で上向いていますので、そういった意味では、市場全体の成長率を上回る成果を出せているのではないかと考えています。特に、オールフラッシュストレージやハイパーコンバージドインフラ(HCI)などの新しいテクノロジーは、他のカテゴリー以上に順調に推移しています。
――日本のエンタープライズITは成熟した市場で、しかもトレンドとしてはITインフラはクラウドに集約される傾向にあり、企業が個別の資産を持たないようになりつつあります。その中で、なぜ大きな成長を継続できているのでしょうか。
お客様の変革に貢献するパートナーになる、という戦略を忠実に実行してきた結果だと考えています。「デジタル」「IT」「ワークフォース(働き方)」、そして「セキュリティー」、これら四つのトランスフォーメーションを通じて、お客様のビジネス変革をご支援していく。昨年は「Make it Real」、つまり変革を唱えるだけでなく現実のものにしていくというコーポレートメッセージの下でビジネスを展開してきましたが、ITのみならずお客様の組織や事業そのものの変革に貢献できる案件が増えてきました。
――今、ほとんど全てのITベンダーがデジタルトランスフォーメーション(DX)を提唱していますが、その中でDell EMCの強みは何ですか。
第一に、デルとEMCの統合によって製品・ソリューション群が大幅に広がり、エッジからデータセンターまで、ITインフラに求められる全ての要素が揃っていることが挙げられます。次に、それらを制御するソフトウェアとして、グループにはVMwareがあり、Pivotalがある。もちろん各ブランドのオープン性を担保しながら提供していますが、お客様の要望次第で、デルテクノロジーズの価値を統合した形でのアプローチが可能です。そして、お客様の変革を支援する施策やノウハウを、グローバルで相当数蓄積してきたことも大きな特徴です。
――日本でも多くの企業がDXに意識を向けているのは確かだと思いますが、とはいえDXの機運だけでサーバーやストレージがそれほど多く売れるものなのでしょうか。
ITインフラの変革を、われわれは「MAT(マット)」というキーワードで表現しています。これはモダナイズ(M)、オートメート(A)、トランスフォーム(T)という三つのステップを示したものです。まずモダナイズ。これは日本語に直訳すると「近代化」ですが、私たちは「最新鋭化」という言い方をしています。例えばストレージの分野でいえば、オールフラッシュやHCIを活用することで集約度を上げることができます。最近ではソフトウェア技術もさらに発展しており、ストレージにAIを乗せて性能の最適化を図るといったことも可能になっています。最新のテクノロジーによって、パフォーマンスや堅牢性が高まり、導入の手間は削減できるので、人件費や外注費も下げられる。お客様の勘定科目でいうところのCAPEX(設備投資のための支出)を大幅に節減できます。
次にオートメートですが、これはシステムの運用に関する自動化の推進です。クラウドの利便性をオンプレミスやプライベート環境でも実現する手だてが整ってきたとことで、お客様の製品やサービスを市場に投入するまでに必要な時間を短縮すると同時に、OPEX(運用のための支出)も抑えられる。デジタル変革を推進するには、このようなアプローチが必要になってきます。
――モダナイズ、オートメートに比べ、その先にあるトランスフォームは、さらに一段階難易度が上がりますよね。
まず申し上げられるのは、モダナイズ、オートメートの段階まででも、コスト削減やタイム・トゥ・マーケットの短縮といった導入効果を享受していただけるため、ビジネス上のメリットはかなりあるということです。モダナイズによって、3~4割の大幅なTCO削減ができる可能性をもつお客様が大勢いますし、オートメートまでいくと、IT部門の対応力が大きく向上します。
デジタル技術を使ってビジネスモデルをトランスフォームすることは、ご指摘の通り簡単に進む話ではありません。それなりの投資や人材育成も必要です。そのためにも、モダナイズ、オートメートでしっかりとコストメリットを出して、IT人材の役割のシフトを可能にしていくことが必要です。ITの変革の効果を分かりやすく示すことで、IT部門の方々が経営層と協議しやすくなるよう支援していきたいと考えています。
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